青少年失踪事件
正直、私自身はこんな目には遭いたくないです。
「『それ』は本当に運がなかった」
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白色のティーカップを手に取る。そして沸かしておいたお湯を注ぐ。いつも通りの朝。……とはいかなかったみたい。
「…どうかしたの?」
振り向いた先にいるのは白い鎧の騎士。
「大したことではございません。現時点においては。それよりも今日もお変わりなくお美しいですね」
これまでに幾度となく聞いたお世辞に覚えず僅かな渇きを含む笑いが漏れる。
ふと視線を落とすと、手中の紅茶に自分の顔が浮ぶ。
……白い肌に無駄に透き通った赤。それは、良く言えば神秘的とでもいわれる様なもの。悪く言えば血の気の感じられない蠟人形。雪に滲む鮮血。血の通っていないような風貌に肩過ぎまで伸ばした白髪が拍車を掛ける。それが私。ずっと変わらない。
「それはどうも」
最早お決まりとなった感のある言葉を相変わらず表情に欠ける白騎士に返し、問う。
「ところで用は何?」
「輪者……聖輪の使い手が呼び出された様です」
「──!!」
何やら含みを持って紡ぎ出された言葉に脳の処理が半拍ほど遅延する。輪者……、あの勇者とも人々に呼ばれるものが? この時に?兄さんが言っていた者たちが?
一つ咳ばらいをし、あくまで平静を装う。そして尋ねた。
「それは何処で?」
「シュトバハト。すぐそこですね。数は六人の様です」
……六人か。一二輪者。兄さんはそう呼んでいた。そうだとするとあと六人足りない。何故だろう? いや一二人でなければならないとは限らないか。もしくはそれで十分ということかな。
……もうその兄さんは居ない。私がこの世界の責任を負わなければならない。それが最後の約束なのだから。彼らがこちらに来るということは重大な危機が迫っていることの顕れ……
少し考えてから指示を出す。
「彼らとその周りを見張っておいて。そのために動員する人員の配分は貴方に任せる」
とりあえずはこんなところで良いだろう。人の世には基本干渉しない。
……まあ、輪者は別だけど、先ずは力の程を見せてもらわなきゃね。針の筵を乗り越えて初めて得られるものもある……よね?
白騎士が下がり、一人に戻った部屋で、私は僅かながらも顔に笑いが浮かんでいることに気が付いた。
「さあ、見せてもらおうか。……三代目、勇者様」
その言葉は、宙に吸われて散らばっていった──
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「…現在、行方不明者が急増しており、注意が必要で…」
最近は色々と物騒だな。そもそも引っ掛かる奴も大概じゃねぇのか?もう少し考えるべきだろ。詳細は知らないけどな。
「アンタいい加減部屋を片付けなさい」
台所から母さんの声が飛んでくる。無視だ無視。十分片づけてあるさ。これ以上は知らない。こっちは講義で忙しいっての。
俺は部屋に戻るために立ち上がった。
この後何をするかな。もう遅いし携帯ゲームの日課を終わらせたら寝るか。
翌日、授業を終えた後ゲームセンターに寄り、その後はふと思い至って自宅近くの図書館に入った。
結構久しぶりだな。小学生ぐらいの時はよく使ってたものなんだが。来てみたは良いがすることもない。なぜ入ったのか疑問に思えてくる位だ。帰ろう。今日は金曜日だ。しばらく暇ができる。
いつも通り家の近くの歩道橋を通った時、何かが落ちていることに気が付いた。なんだ? 後ろを振り返ってよく見てみると何やら光っている。
──何故この選択をしてしまったのかは今も分からない。
一瞬躊躇った後、もう子供でもないのに拾ってしまった。指輪…だな。紫色の宝石のようなものが嵌まっている。
なんだか安っぽいな。結婚指輪ではないだろう。そもそも紫の宝石は基本使わないだろうしな。ならおもちゃか? それにしては良く出来ている。高級品の良し悪しなんて分かりっこないがな。
それにしても結構大きい。俺でも嵌められそうだ。こういう時はどこに嵌めればいいのか。良く分からないが右手の薬指だったかな。深く考えもせずに指に嵌めると、指輪が少々控えめに輝いた───
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気がつくと知らない場所にいた。気持ちの悪い目覚めだ。
……どうなっている?
辺りは靄がかかったようになっていて近くの様子すら分からない。いきなりすぎて理解が追いついていない。当たり前か。唐突にも程がある。
「 ───────────」
声を出してみようとするが、喉が圧迫される感じがして声が出ない。
何でこんなことになっているのか心当たりしかないが、いくらなんでも非現実的過ぎないか? 混乱というか困惑から立ち直れそうにない。
指輪を確認し外そうととしてみたが、びくともしない。
きつくて外れないのではなく、見えない何かで固定されていて動かない感じだ。
頬をつねってみた。しっかり痛い。じゃあ現実だ…、んなわけあるかってな。一人芝居でも始められそうだ。
……それに今、気が付いたが浮いていないか? 気づいてしまった瞬間に落ち始めるやつあるよな? なら死んだな。
Ha ha ha、はぁ。気が狂いそうだ。もう狂ってるか。どんな幻覚、もしくは夢だよ。
…………
……
…既に落下中だった。
あーーーー、なんてな。案外、ゆっくりだった。
落ちていくうちに遂に靄以外のものも見えだす。剣、槍、杖…。鎌なんかもある。ざっと5本くらいか?靄の向こうにもっとあってもおかしくなさそうだが。
瞼が重い。病的なまでの眠さに、夢へと誘われる。一生目覚めないとかいうオチは御免被りたいな……
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久々の地面、母なる大地を感じる。
大分おかしくなってるな、俺。夢であっても心配になるレベルだ。
「おーい。大丈夫か?」
瞼を開けると金髪の男が覗き込んでいた。髪がプリンみたいになっているがなかなかに良い顔。
「良かった。大丈夫そうですね」
今のは別の奴の声だろう。
「ああ、たぶん大丈夫だ」
起き上がり、体を確認する。見た感じ体に異常は無い。状況は特異だが。
あたりを見回してみると声をかけてきた奴らが二人、さっきまでの俺と同じ様に地面に転がっているのが三人確認できた。
…取り敢えず現状確認が最優先だろう。
「何が起こっているか分かるか? …いや、分かりますか?」
「あんまり良く分からないな」
「尋常でない事態であるのは確かだと思いますね」
2人が答える。良く分からないって事だけは分かった。金髪でない方は茶髪だ。俺は地毛で黒だから三色揃ったな。ぱっと見の印象としてはそれなりに真面目そうだ。背は俺よりは高いぐらいだ。金髪の方は俺より10㎝以上は背が高い。180cm近いのではないだろうか。
「なんとも許容し難い状況ですが、とりあえず他の三人も起こしたいところですね。あと、敬語は使わなくても結構ですよ」
「じゃあ、遠慮せずに」
よそよそし過ぎるのもあんまり良くないか。そう思って返すと、
「まあ、それはそうとしてさ、後の奴はまだ起きてきそうにないし、まずは軽く自己紹介しようぜ。俺はおういん えいどうだ。出会いに感謝するよ」
敬語がどうこうの話を無視して、プリン頭が無理やり名乗る。てか出会いに感謝、か。変な奴だな。そういう奴はもう絶滅したんじゃなかったと思っていた。まあ、それは俺の勝手な想像だがな。
「なんかすごい名前ですね」
「どんな字を書くんだ?」
茶髪がなんとも語彙力の無い言葉を返し、こちらも大差ないレベルの内容の返事をする。字の想像がつかない。
「よく言われるよ。旧字の桜に院政の院で櫻院、大義の道で義道だ」
「…なんか強そうだな」
感想が思いつかん。引き続き、語彙力の無い返事をする。
「じゃあ次は私ですかね。私の名前はかみづり ほまれです。神様の旧字体のほうの神に、吊り橋の吊りの部分で神吊、稲穂に希望で穂希です。あなたは?」
次は俺の番の様だ。
「俺は黒瑞 緋々來だ。黒い瑞、緋色の緋に人々の繰り返しの漢字、そして未来の來の旧字体のほうを書く。まあ漢字は気にしないでもらっていい」
「かわいらしい名前ですね」
「初めて聞く苗字だな」
「そうか?」
かわいらしい…だと?
まあ今まで同じ苗字の奴に出会ったことはないのは事実だが。
「取りあえず軽く自己紹介もできましたし、櫻院さん、黒瑞さんこれからしばらくお願いしますね」
「おう、とにかく全員起こそうぜ」
「それならどう起こす?」
起きるまで放っておくしかないんじゃないか?それなら他に出来る事を探したほうが良いかも知れない。
「そうだな…お前みたいに呼びかけたら起きるんじゃないか」
「ならとりあえずやってみるか」
「そうしましょう」
「ん……」
そんなことを話していたら目覚めた奴がいたようだ。
神吊だったか何だったかがそいつの前にしゃがみこんだ。
「こんにちは。いきなりで悪いですが、体に異常は無いですか?」
近づいて見てみると目を左右に動かしていて、だいぶ混乱しているようだ。俺もこんなだったのかもなぁ。そう考えると少し恥ずかしいような気もするがもう遅いか。
「はい、……あなたたち、は?」
体を起こして答えたのは黒い癖毛の青年だ。内気な雰囲気って感じか?
出てくる面々に統一感が無いな。いや、そんなものか。
皆さんはあなた自身が、こういう目にあったらどうしたいですか?
彼らが紡ぐのは、ちょっぴりダークな物語。正義とはいつ、どの世でも、どこまでも高圧的で、傲慢なものです。
爽快感はあまり無いかもしれませんが、精一杯書いていきたいと思っていますので、気が向いたら覗いてくれると嬉しいです。
とりあえず、はじめの方は話の内容がある程度は既に固まっていますので、早めに出す予定です。




