02 就職先はスパイ事務所
「あ、ねぇ、仕事とか困ってたらうちで働かない!?一応住み込み!」
彼女の圧に驚きながらも、冷静に対応する。
「あぁー………まぁ仕事には困ってる。違うとこから来たから一文無しだし」
「じゃあ決まり!事務所まで行くよ!」
腕を引っ張られ、彼女の言う事務所という所に、むかう。
冷酷な雰囲気なのにどこか強引、やっぱり彼女は不思議だ。
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「でっっっか」
正直想像の5倍ほど大きかった。
まるで雲まで突き抜ける程の大きさだ。
「地上80階、地下90階の事務所だよ。びっくりするのも当然かな」
「へぇ〜〜〜………」
((………変な声出てたな《出てましたね》))
お互いくすりと笑う。
誤魔化すように手を引っ張る。
「………行くぞ」
「私の役割取らないで下さいよ」
「すまん」
事務所に入る瞬間を、猫は見ていた。
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一階のロビー。
人が行き交い、あちこちに視線が向かう。
そんな姿に彼女が笑う。
急に彼女が扉の前で止まる。
「どうしたんだ?」
「エレベーターだよ。上や下に自動で行けるの」
「何それめっちゃ便利」
エレベーターに乗ると内臓がふわりと上がる様な感覚がする。
「っていうかエレベーターに乗ってからしばらく経つな。後なんで上に行くんだ?」
「このビル高いから2分くらいかかるよ」
「2分!?」
「後、働くには管理長に許可貰わないとだから」
「ふーん………」
エレベーターのチャイムが鳴る。
(………まさか本当に2分以上かかるとはな)
扉が開くとそこには長い廊下が広がっていた。
少し歩いた末、大きな扉が広がっていた。
「……ん。鍵掛けられてる。レティー?」
「はいはい、何ですか」
扉からは赤と黄色の目をしたベレー帽の女性がいた。
彼女が言うにはレティと言う方らしい。
「………ん?そちらの方は?」
「新人候補。管理長に会わせたいんだけどいい?」
「いいですよ。あと入ってきて下さいよ。管理長?」
部屋はゴージャスさを残しながらお洒落でシンプルなデザイン。
まさしく管理長の部屋らしい部屋だ。
「……なんだい?」
光沢を帯びたブロンドの髪。
吸い込まれるような深紅の瞳。
圧倒的なカリスマをその一言で感じる。
「サイダーさんの推薦で新人候補だそうです」
「へぇ、そうかい。………いいね。試験に回そう」
余りにも簡単に試験に回すと言われ驚きを隠せない。
「えっ。そんな簡単にいいんですか?」
「まぁしっかりとした部隊じゃないからね。試験の前に名前を聞いても良いかな?僕は管理長を務めさせていただいているロゼと申します」
紳士的で美しい。
さぞ女性に言い寄られそうな人だ。
「えっと、彰だ」
「申し遅れました。秘書のレティです」
「そういえば名乗ってなかったね。サイダーです」
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管理長に勧められ、お茶を飲みながらのびのびとしている時にふと疑問に思う。
「あの、ここってどんな仕事をするんですか?」
サイダーが立ちくるりと回りスカートが舞う。
「………そうだね。カッコよく言えば『スパイ』かな」