18 治療班にて
「ねぇ、起き……はぁ、起きろぉ〜〜!!」
誰かの声と薬品の匂いが鼻を擽る。
脳がヒリヒリとする。
見慣れない天井、見慣れない壁、見慣れない声。
朦朧とする意識の中、何とか声を絞り出した。
「ぅ……あ……き…?」
何故か異常に喉が痛い気がする。
あれ?彰は?
そうだ、思い出した。私、私は……。
「ああああぁぁぁッッ!!」
腹から思いっきり声を出した。
無理矢理でも出したかった。
出さなければ駄目だった。
酷いほどに喉が枯れている。
彼は眉を潜めた。
「あちゃー。まぁ……仕方がないか。……なぁ、サイダー……レイジスだったか?どちらでもいっか。ねぇ、理性はある?」
「ゲホッ、ゴホッ……!!ぃ……いち…ぉう」
叫んだせいか、咳が止まらない。
吐き気も少しある。
そして彼はメモを取る。
「よし。サイダーちゃんは以前、バグの精神汚染にやられた、そこまでは覚えてる?」
声が出なく、代わりに顔を上下に動かす。
それにしても、この人は一体誰だ?
「じゃあ……おっと、自己紹介がまだだった。ちなみにキミはしなくて大丈夫、全部知ってるから。キミが入ってる事務所の治療班で仕事してる岩橋傑、気軽に傑って呼んでよ♪」
自己紹介をされたところでどうにもならない。
本当にどうでもいい。
ただ、早くみんなの元へ……。
「は……はぁ…。傑……さん。……あの、彰は…その…?」
「キミほんとーにあの子の事好きだよね!ウケる。もしかして恋とかしちゃってる?なーんて!ははっ……じゃなくて、彰君は普通に働いてるよ、今は依頼に行ってる時間帯かな」
「そ……そう。ょかった……」
彰が無事で何よりだ。
彼は……私の人生を、変えてくれた人だから。
「……サイダー・レイジス。スパイ事務所エルビス所属の21歳、魔力量は非常に多く、期待できる。小さい頃に母父共に失っており、現在はB班に勤めている」
「!なっ……!!」
何故知られている。
その言葉よりも先に体が動き、ベッドから身を乗り出そうとする。
そして彼がこちらにより、華奢な指を口元に当てられる。
「何故、そう言おうとしただろう?すべてお見通しなのさ、生い立ちも、現在も。キミは良くも悪くも変な者に魅入られたね。……安心してくれたまえ、バグでは無い、もっと……厄介な者だ。……最愛の人と出会えたというものに……残念なものだね。これも言わば運命。重要監視対象No.5、トキサメ。能力は対象の運命を書き換える、被害者はキミで13人目」
笑顔で、それでいて淡々と話し続ける。
幾度となくスポットライトが当てられたように、彼はステージの上に立っている。
「……どぅしろと?」
「……話が早い。それでいて面白い」
彼は少し驚きの表情を見せるも、すぐに立て直す。
何処となく楽しそうだ。




