魂の伴侶
番外編です。楽しんで頂くために以下のことをご了承ください。
・一部流血表現があります
・死についての話があります
・ヴァンパイアについて独自の設定があります
ジークが人になると宣言してから早十年。あいつどうしてっかな。
ヴァンパイア仲間で友人だったあいつが人間になるって聞いて裏切られたと思った。けど話を聞いている内に俺に止めることはできないと悟った。
「あークソ!!!狩りに行くか。あんま乗り気しねぇけど」
いつも寝床にしてるビルの屋上から飛び立ち、路地裏に降りる。当て所なく街中を歩いてると一人でめそめそ泣いてる女を見つけた。あいつにすっか。
「おーいお嬢ちゃん俺と楽しいことしねぇ?」
「ふぇ?えっとどちら様ですか?」
「俺はクロア。お前は?」
「私は神崎深雪です。あの…楽しいことって?」
「んーお前ん家行けばできるぜ。」
「えっと…私家なきこなんですけど…」
「は?」
とりあえずこいつを一人にしといちゃまずいかと思って近くの公園のベンチで話を聞くことにした。なんでこんなことになってんだよ…
「実は…住んでたマンションが隣の火事に巻き込まれて…」
「おっおう…」
「それで…大家さんにどうにか補償とかできないかなって頼み込んだんですけど、できないって言われちゃって!今家ないんです!!!!!」
「おっお疲れだな…」
「うっふぇぇぇぇん!」
また泣き出しちまった。はぁ。ったく世話が焼けんな。頭撫でときゃ泣き止むか?
「あーよしよし。災難だったな。」
「うっうっ…お兄さん優しいですね…はぁ今夜はカプセルホテルにでも泊まります…」
「なんか…お前心配だからついてくわ…」
「へ?いいんですか?でもお金あったかな?」
「あーいや大丈夫自分で払うから。」
ヴァンパイアだからそもそも侵入できちまうってのは言わなかった。追いかけりゃどうにでもなるしな。
女がホテルに入ったのを確認して俺もついて行く。正直狩りをする気も失せていたし、暇だったからあいつで暇つぶしできりゃいいかと思った。
俺は段々探すのも面倒くさくなってきて、窓から入ることにした。ヴァンパイアってのがバレちまうのなんざ知ったこっちゃねぇ。
「あいつの部屋は確か…あぁここかおーい。俺だ。鍵開けてくれねぇか?」
「はーい!」
「いや普通に開けんのかよ!」
「え?あっお兄さん空飛んでる!すごーい!」
「ツッコむところはそこか!!!」
だーもう!調子狂うな!なんなんだよこの女は!俺はベッドに腰掛けそいつを隣に座らせた。
「お前俺のこと怖くねぇのかよ?」
「全然!だってお兄さん私が一人で泣いてた時声かけてくれたじゃないですか!」
「…ヴァンパイアだって言ってもか?」
どうせこいつもこれで顔色変えて命乞いすんだろうよ。とたかを括っていたら凄ーい!っつー呑気なことを言ってきやがった。こいつ肝座り過ぎじゃねぇ?
「あのな。ヴァンパイアだぞ?今からお前俺に食われんの。意味分かるか?」
「あっはい。分かりますよ。…正直助かりました。だってもう生きていたくなかったから。」
「お前…家っつーのが大事なのは分かっけど、火事から逃げられたんだろ?ならその分生きろよ。死んじまった人の分まで。」
「クロアさん…ありがとう…ございます…」
「はぁお前泣き虫だな。」
「ずびばぜん!!!」
鼻ズビズビ言わせながらピーピー泣きやがる。ったく。仕方ねーな。俺は柄にもなくそいつを抱き寄せ泣き止むのを待った。はぁ今日は災難だな。
「クロアさんありがとうございました…おかげで生きる気力が湧いてきました。」
「おう。良かったな。」
俺の食事はお預けだけど。
「あの…お礼に血を吸いませんか?」
「は?」
「えっとどのくらいで死んじゃうのか分からないので加減して頂けるとありがたいんですけど…」
「心配すんのはそこじゃねぇだろ!はぁぁぁお前なぁ。そうやって自分を易々と差し出すんじゃねぇ。」
「すみません。」
「それとスミマセンもやめろ。自分で自分大事にしなくてどうすんだよ。」
「…ふふっクロアさんお兄ちゃんみたい!」
「お兄ちゃん!?もう何でもいいわ…好きにしろ」
「はい!じゃあ寝ましょうか!」
そう言ってポンポンと叩いたのは今座ってるベッドだった。
「お前はもうちょっと危機感を持て!!!」
「すみません!!!」
「俺は帰る!!じゃあな!!!」
「あっクロアさん!」
マジであの女なんであんな貞操観念で生きてこられたんだよ!甚だ疑問だわ!!!その日は結局収穫がないまま寝床に戻った。
変な女に会って数日が経ったある日。狩りに行く途中、あの日公園のベンチで泣いてるところを見かけちまった。何となく放っておけなくて声をかけた。
「おーい。大丈夫か?」
「あっあの時の」
「おう。覚えてくれてたんだな。」
「はい!もちろん!クロアさんどうぞこちらへ!」
「お前の俺に対する信用は何なの?」
座るけどよ。躊躇なく隣を勧めてくるなんて変なやつだな。
「確かお前ミユキ…だったよな?今度は何で泣いてんだよ。」
「えっと…仕事でミスしてしまって上司にこてんぱんに怒られました…」
「そうか…お前目にクマあるけどちゃんと休めてるのか?」
「火事にあってから怖くて寝付けなくなりました…家も探さないとで休んでないかもしれないです。」
「じゃあちゃんと休め。またな。」
立ち去ろうとすると手首を掴まれた。ん?まだなんかあんのかよ。
「どうした?」
「その…もしよろしければ添い寝してもらえませんか?」
「はぁ!?お前なぁ!!!俺はただの男じゃねぇんだよ!ヴァンパイアなんだよ!生殺しもいいところだろ!」
「すっすみません!出過ぎたことを!」
またスミマセンか…ったく仕方ねぇなぁ。
「…一晩だけだぞ。」
「はい!ありがとうございます!」
俺はミユキについて行ってホテルに向かい、ベッドで添い寝したのだった。マジで俺何やってんだ。
深夜に目を覚ました俺は魔法で朝日が入ってこないように結界を張った。別に寝る前でも良かったんだが、何となくまたこいつが騒ぎそうな気がしてやめておいた。
翌日ミユキよりも先に目が覚めた俺は寝顔を観察してみた。…何気に可愛い顔してんだよな。ふわふわした茶髪にくりっとした目、ぷくっとした唇…いや俺は何考えてんだ!頭を振って煩悩を消し去った。
はぁだから言ったじゃねぇか。生殺しもいいところだって。
それにこいつ他の女よりもいい匂いすんだよなぁ。普段なら何もしねぇのに。まぁいいか。
因みにその十数分後くらいにアラームで目が覚めたミユキはバタバタしながらホテルを出て行った。忙しねぇなあいつ。
それから俺がミユキを見つけると必ず添い寝に付き合わされるようになった。どうやら俺からすげぇいい匂いがするらしく、あろませらぴー?っつー効果があるかもしんねぇって話だった。
実を言えば俺も似たようなことを考えていた。あいつに隣にいると妙に吸血衝動も落ち着いてぐっすり眠れるんだよな。謎だけど。
だからと言って生殺し状態が変わるかと言われると否だった。無理だろ!!!目の前にいい匂いがする餌がいんのによ!!!吸うなって言う方が酷だろ!!!
心の中の葛藤を押し殺して俺は添い寝を続けた。よく眠れるのは事実だし断ったらまたスミマセンって言うかもしんねぇって思ったら嫌だったから。
そんな妙な関係が続いたある日のことだ。あいつがソワソワしてるから何があったか聞いたらおずおずと口を開いた。
「実はお家見つかりました!!!」
「おぉ!おめでとう!」
「ありがとうございます!えへへ。一番にクロアさんに伝えられて良かった。」
「一番…」
「はい!」
何だろう…太陽の光じゃねぇのにめちゃくちゃ眩しい。それに心がふわふわするっつーか…誰にも見せたくねぇって思った。
「なぁ。」
「はい!」
「その笑顔、俺以外に見せんなよ?」
「ん?はい!分かりました!」
「分かってねぇだろ!」
「いひゃいでふ」
呑気に返事しやがるから頬を引っ張ってやった。もちっとしてんな。食っちまいてぇ。思わず涎が垂れそうになるのを抑えて俺は最後の添い寝をした。はずだった。
「なんでお前ん家呼ばれてんの?」
「だって添い寝して欲しいんですもん!」
「はぁ。分かったよ。その代わりここにずーっと居座るからなぁ〜」
「大!歓!迎!です!」
「ヴァンパイアを歓迎してどうする!!!」
本当この女変なやつ!!!
それからミユキと生活を共にするようになって分かったことがある。あいつ、飯美味そうに食うんだよなぁ。ふわふわな笑み浮かべながらもぐもぐしてるのが可愛いと思った。
だから段々人間の食事が気になって、たまごやきを一口貰ったことがある。
「どうですか?」
「味しねぇ」
「やっぱり血じゃないといけないんですかね?」
「…けどお前が美味そうに食うのを見るのは好きだ。」
「ひょえ!あっありがとう…ございます?」
「おっおう」
その時何故か顔真っ赤にしてやがった。それが俺にも移っちまうんじゃねぇかってくらい。
それから数ヶ月が経ったある日のことだ。顔を真っ赤にしながら帰ってきて、何かあったのかと焦ってベッドの上に座らせた。すると思いもよらないことを告げられた。
「実は会社の人からこっ告白されまして…」
「は?」
「いい人だなと思ったんですけど…でも私すぐ返事できなくて」
心臓に鉛が落ちたようだった。そうか。人間だもんな。俺よりもお似合いだよ。けど…気づいちまった。
俺はミユキが好きなんだと。
「なぁ。そいつと付き合いてぇのか?」
「えっと分からないです…」
「なら…俺にしないか?」
「へ?」
「俺はヴァンパイアだからすぐにとはいかねぇけど人間になる方法も知ってる。もし俺を選んでくれんなら人間になってやる」
「まっ待ってください!」
制止された。なんで…俺じゃダメなのか?
「なら…私を連れて行ってください。」
「は?」
「私のせいで沢山苦労をかけたのにこれ以上クロアさんに苦しい思いをして欲しくないんです。だから」
「待て!それは魂の伴侶じゃなきゃ…あっ」
「どうしたんですか?」
なんで今まで気づかなかったんだ。こいつが俺の魂の伴侶なら五感が反応するはずだろ!俺は魔力を五感に集中させてミユキとの相性を見た。すると全て一致した。
おい、ジーク。お前の言う通りだったよ。魂の伴侶、見つけたぞ。
「なぁ」
「はい」
「魂の伴侶ってのはさ、ヴァンパイアになって数千年を共に過ごして一生日の光を浴びられないんだけどよ。それでもいいか?」
「クロアさんと一緒にいられるなら喜んで。」
「…俺の本当の名前はロアールだ。」
「ロアールさん…素敵な名前ですね。」
そして俺は本能の赴くままに首筋に牙を立てた。これでお前は一生俺のもんだ。誰にも渡さねぇ。
あれからミユキはヴァンパイアになり人間界から記憶を消された。けれどそれを気にする素振りもなく、隣で人間の時のままふわふわとした笑みを浮かべている。
互いの血を吸って生きながらえること百年と少し、ミユキから嬉しい知らせを聞いた。
「ねぇロアールさん」
「なんだ?」
「子供、できたみたい!」
「本当か!!!」
「うん!知り合いの女性のヴァンパイアさんに聞いたから間違いないよ!」
「そうか…そうか…俺達の子が…」
子を宿してから二年、元気な男の子が生まれた。その時は柄にもなくめちゃくちゃ泣いた。次の日、目が腫れてた。
名前はユージン。愛称はジーンだ。俺の親友と一文字違いで付けさせてもらった。
なぁジーク。お前は今どうしてる?独りになっちゃいねぇか?寂しくなったら俺らを訪ねてこい。俺と魂の伴侶、子供と一緒に迎えてやるからよ。
それから一度だけ家族でジークの元に顔を出した。ジークは時を捧げることを選んだらしく、あの時と見た目は変わっていなかった。
「よぉ。ジーク。元気か?」
「あぁ。貴様は…老けたな。」
「うるせぇ!こっちは俺の魂の伴侶のミユキ、と俺たちの子供のジーンだ。」
「そうか…上がっていけ。」
「おう。」
俺達はえんがわとやらに座って、昔話に花を咲かせ、ミユキは楽しそうに聞いていた。ジーンはまだ幼いからか暇そうにその辺を駆け回っていた。
「まさか貴様が魂の伴侶を見つけられるとはな。」
「俺も驚いたよ。ジークは…伴侶はまだ見つかんねぇのか?」
「あぁ。探しているがまだ転生していないらしい。」
「そうか。…お前、独りになるなよ。」
「分かってる。お前の騒がしい声を思い出せば孤独なんぞ消えていく。」
「騒がしくて悪かったな!」
「「あっはっはっはっは!!!」」
月日は流れてジーンが大人になった。俺達は廃墟のビルの屋上で月明かりを眺めていた。
「ねぇロアール」
「なんだ?」
「私、ロアールさんに出会えてよかった。」
「俺もだ。ミユキ。…愛してる。」
「私も愛してる。」
そうして俺達の影が重なった。ミユキ、これからも俺の側にいてくれ。寿命が尽きるその日まで。
クロア編 終
ここまでご覧いただいてありがとうございました!次回は未定ですが、余力があれば番外編を書こうか検討中です。その時はよろしくお願いします。