6.とりあえず右
とりあえず右の方に開いている穴をどんどん潜って行くけれども、人に会わないし、寝ている人も不自然な位に見ない。ぐるぐる同じ所を回っているとは思いたくは無いけれど・・・。部屋に置いてある調度品が全く同じ訳では無いから、違う部屋には行けていると思う。思いたいが、自信は無い。でも、闇雲に右に左にと行く勇気も無い。慎重と捉えて欲しい。
「誰かが隠してる?」
ぐるぐる回っている事を考えないとすれば、誰にも会わなさ過ぎると思う。確かに何かの陰謀だったら、無防備に倒れている人が危ないもんね。狙われちゃう。ということは動ける誰かがいるという事か・・・。複数人いるかも。お城にいる人はかなりの数だろうからなー。
「何用だ」
「!!! っわ。びっくりした。え? ええっと、用事?」
おっどろいたー!!! 急に現れるから。気配無かったよ! しかも、何処から来たの? もう私は何処から来たのか、今は入った場所からどの位置にいるのか分かっていないよ。
「人か?」
「え、ああ。そう。そうです」
残像しか見えなかった声を掛けて来た人の姿を漸く捕らえられた。
うわっ。格好良い!! 蟷螂っぽいかな? 背が高くて、筋肉しかなさそうなメタリックな色合いの人でした。表情は全体的な雰囲気にあった厳しめ。不法侵入で怒られている訳では無いと思う。
それにしても、んん? 今、人かどうか聞かれた? 人って答えたけど、良いんだよね? 人だしね。相手も人っぽくは見えるけど・・・。
「蟲人は動けぬか」
むしびとって何ですかね? 言葉からは虫系の人っぽい感じがするけど。対面しているこの人も、思いっきり昆虫系のようだけど。不思議だね。
「あなたは?」
「我も勿論、蟲人だ。欠陥品だがな」
自嘲が混じる。ええー。初対面でそんなこと言われても・・・。よし、良く分からなかった風でいこう。
「動けるんですね?」
「欠陥、故だろうな」
うわー。回避できず。仕方が無い、聞くかー・・・。いや、待て。
「あのー、何が起こっているんでしょうか? それをお城で聞こうと思って来たんです」
トッド君、一応、聞いてみたよ。目の前の人が分かるかどうか、分かんないけど。
「分からぬ」
・・・「そうですか。はい、さようならー」とは、いかないですよね? 二人で考えても分からないだろうし、私はこちらの事情は全く分かっていないしなー。