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即興短編

褒め頃シスター

いえい


褒め頃シスターが獲物を探してる




そろそろ褒め頃


頃してやるわい




そう言いながら、誰も褒めない


褒めるのが恥ずかしいのだ




「失礼、シスター」

 蛇の顔をしたイケメン紳士がナンパする。

「ご一緒にうさぎでも呑みませんか?」


 シスターはぱあっ!と顔を輝かせ、蛇の顔を確認してあからさまにガッツリ……いや、ガッカリする。


「うさぎは呑みものではありませんわ」

 ツンとあっちを向いてそう言うと、

「あ、そうだ。貴方を褒め頃して差し上げます」


「なんなりと、お好きなように」


 まじまじと見た。

 スタイルはいい。

 着ているものもいい。

 でも顔は蛇だった。



褒め頃しの妙はそのひとが一番気にしてそうなところを褒めるのよ


そしてそいつの短所をそいつが得意になってひけらかして自滅するのを藁藁と笑うのだ



「貴方のお顔は鋭くて素敵ですわね!」


 基本的に恥ずかしがり屋で褒めたくてもなかなか他人を褒められないシスターでも、やった! 蛇ごときなら褒めることができた。


「そのギラギラとした金色の目! 針のような瞳! うさぎを丸呑みにしそうなお口! そこから炎のようにチロチロ覗く情熱の赤い舌! 堂々と胸を張って、今すぐ船小屋へ行ってオヤジ達に見せびらかすべきですわ!」


「バカにしているんですか?」

 蛇の目が険しくなった。

「僕の一番気にしてるところばかり」


 シスターはへこたれない。

「ご自分の気にしてらっしゃるところがじつは一番の長所だなんて、よくあることですのよ。もっとそこに自信をお持ちになって!」


「嫌です」


「なんてこと!」


「では、次は僕の番だ。貴女のことを褒めてみせましょう」


「まあ!?」


 蛇紳士は深く息を吸い込むと、シスターを足の先から頭のてっぺんを突き抜けて青い空まで眺め回し、言った。


「あなたは……他人にすぐ嫉妬する。他人の美しいところや、他人の成功をやっかんで、すぐに蹴落とそうとする人です。自分が一番でなければ気が済まないのですね。……いや失礼、一番なんて自分にはおこがましいとか思って、常に二番か三番を狙う人ですね? そして一番の人にはヘコヘコして、太鼓持ちになる。そんな嫌らしいくせに慎ましい性格をしていながら、他人を蹴落とす快感に身を委ね、なんとか死なずにここまで生きてきた。見た目だけはまぁ可愛らしいので、そこだけを褒められて、それを己のパワーに変えて生きてきた。だから、僕はあなたの外見を褒めます。あなたは外見だけはそこそこいい人だ。素晴らしい! そこそこ素晴らしい! 二番目か三番目ぐらいに素晴らしい! でも僕はあなたと結婚したくはありません。ナンパしたのは遊ぶためでした。あなたはそこそこ可愛く、自分に自信がないためか、隙だらけですからね。ひっかけて、ハイエースに詰め込んで、うさぎのオモチャにしようと思っていたんです。でも、やめた。あなたは生きている価値のない人間です。でも、見た目が素晴らしい。そこそこ素晴らしい!」


 褒め頃シスターは両手を胸の前で合わせ、とっくに戎橋の上から道頓堀川へ飛び込んでいた。


「なんてバカなことを……」

 見下ろしながら、蛇紳士は呟いた。

「阪神タイガースが優勝もしてないのに!」


 そして懐からうさぎを取り出すと、肩に乗せ、グリコの看板のほうへ歩いて行った。



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