73話 4強と勇者として
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気絶したレテはそのまま救護室へと運ばれる。
「おいおい、人類の4強のうち3人が敗れたぞ」
「嘘だろ」
「やっぱり本当の英雄だったんだ」
「人類の英雄だ」
実戦形式の訓練が終わり、周りがガヤガヤと騒ぎ出す。
その喧騒の中で1つ気になった単語があったので、スイエルに聞いてみた。
「審判ありがとな。助かったよ。なぁちょっと気になったんだが、人類の4強ってなんだ?」
スイエルは何かジンに話していたらしく、俺の言葉に振り返った。
「ギマンの頼みなら、わらわ何でも聞くぞ! やはり知らんかったか。人類の3強っていうのは恥ずかしいが、わらわとこのジン、レテとランディスの4人の事じゃ。わらわ達3人は呆気なく負けたがの」
確かに今まで見た中で人類側の中では、Lvが高かったがそういう事だったか。
俺が納得しているとジンが近づいてくる。
「さっきは助かった。あのままでは俺は死んでいた。やはりステータスだけではなく、対応力や冷静さも兼ね備えていた。これからも指導よろしくお願いする。俺は強くなりたい」
無口だと思っていた奴が、まさかこんなに喋るとはな。
俺はジンが求めてきた握手を返しながら
「ジンもかなりの腕前だったぞ。初手の一撃を躱されてからの攻撃の組み立てもよかった。1つ質問するがレテはいつもあんな戦い方をしているのか?」
あの戦い方とは、ステータスは爆発的に上がるが、獣同然の知能になる事だ。
「俺達は同じ前線にいて、魔族が来ない時は魔物なんかを狩っていたが、レテは誰とも組もうとはしなかった。今思えば、あんなスキルがあったからだと分かった。多分レテは英雄殿が本気で戦っても大丈夫な相手だと判断しての行動だと思う」
レテ自身も自分のスキルの事は分かっているようだな。それならよかった。
だが、これからの訓練でその短所を何とか補うようにしないとな。
俺とジンが話していると、勇者スバルが近づいてきた。
「あ、あの、さっきは本当にごめんなさい。感情がぐちゃぐちゃになってて、八つ当たりしてしまった。これから立派な勇者になるから、指導の方よろしくお願いします」
最初とは別人みたいなスバルの態度に俺は驚く。そして、スバルに1つ言いたいことを言う。
「お前は立派な勇者になりたいのか? そういう風に言われたのか? もしそうだとしたら、自分がやりたい事をしろ。なりたいようになれ。勇者だから魔族と戦わなくちゃいけないと思ってるんだったら、俺がその重荷を肩代わりしてやるよ」
決闘前からも勇者としてこうでなくといけないと連呼していたので、少々説教臭くなってしまったが、こだわる必要はないと伝える。
その言葉にスバルの目から涙が頬を伝う。
「ギマンよ。また女の子を泣かしたのか?」
その様子を見ていたデノンハウザーが俺に疑いの目を向けてくる。
「いやっ、別に俺は何にも」と釈明する。
ってか勇者って女だったのかよ。中性的な顔してるから分かんなかった。
今思い出すと、初対面の女の子に殺気をぶつけて、酷い言葉をかけて、顔をグシャグシャにするほど泣かせる。
自分のやってきた事に頭を抱えていると、勇者スバルが涙を拭い訂正する。
「デノンハウザー王、違うんです。今まで勇者って肩書きで皆から期待されて、良い勇者になってくれ、魔族を倒してくれと言われ続けてきたのに、そんな事いきなり言われて嬉しかったんです」
その言葉に勇者スバルがどれだけの思いで勇者になろうとしていたのか伝わった。
見たところ、元の世界の俺より遥かに年下の女の子が、勇者として魔族と戦えなんて言われたら、普通放棄するだろう。
でも、スバルはそれでも必死になって、みんなの期待に答えようと、立派な勇者になろうとしていた。
そんな時に俺が突然現れた。そりゃあんな態度とりたくなるわな。
「ギマンさん、僕決めました。勇者はやめません。確かに、今まで自分の本当の意思ではない事もやってきたけど、やっぱりこの国を守りたい。その思いだけは嘘じゃなく本当だから。皆を引っ張る勇者にはなれないかもしれないけど、諦めずに頑張る。これからビシバシ鍛えてください!よろしくお願いします!」
勇者スバルはそう言いながら俺に向かって頭を下げた。
俺はその姿を見て、勇者という肩書きなんか無くても、心意気そのものが勇者だなと思った。
皆途中から私語を辞めて、勇者スバルの言葉を聞いており、心打たれたのか拍手をする。
勇者スバルは皆から拍手をされて困惑している。
その様子を見た俺は、これなら悪役をしたかいがあったかもなと思った。
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