57話 遊戯魔法と絶望
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「それじゃあ、もっと遊ぼうよ!」
二重複体は、またナイフを取り出して増やしていく。
「フフフ。今度はこのナイフの雨と《不可視の一撃》の二段構えといこうか。避けれるかな?」
さっきは気配を全く感じずに刺されたが、集中して耳を澄ますと、俺の後ろを高速で風を切る音がした。
心臓目掛けて迫り来る見えないナイフを躱した。だが、後ろに注意を割いたせいで、周囲からの無数のナイフの対応に遅れてしまう。
不味いな...このままはジリ貧だ。
今は、まだなんとか捌けてはいるが、二重複体自身はその様子を見て笑っていて、何も仕掛けてきていないのが救いだ。
そして、奴のほぼ無敵みたいなスキルがある限り、俺の攻撃は通らない。
どうする?何かきっかけさえあれば...
俺がこの絶望的状況をどう打開しようか、考えていると、救いであった二重複体が動き出す。
「このまま数の暴力でなぶり殺しにするのもいいけど、少し飽きちゃった。僕からも少し意地悪しようかな。《遊戯魔法 この指とまれ!》」
その言葉と共に、二重複体は人差し指を天に突き出し、秒数を数えだした。
嫌な予感が物凄いするが、ナイフの猛攻に手一杯の俺は、指に止まるより、近づく事すら出来ない。
30を数え終わると二重複体が喋り出す。
「ワイズウェイン様本人ならこの技で、30秒以内に指に止まれなかった人の魂を奪い取り、それで即終了なんだけど、今の僕だとそうだな...右目の視覚を貰おうか」
二重複体がそう言うと、いきなり俺の右目の視力が無くなった。
目は開けているが、真っ暗で何も見えない。
くそっ!何てふざけた魔法だよ!
「それじゃ次いくよー!《遊戯魔法 だるまさんが転んだ》」
二重複体は俺に背を向き、右腕で目を隠し、「だ〜るまさんが」と言い出す。
もちろん今の俺に動きを止める事など出来るわけもなく、「転んだ!」と二重複体が振り返った時も動いてしまっていた。
「ありゃりゃ〜、またダメだったね。次は左耳の聴覚を貰おうか」
今度は左耳から何も聞こえなくなった。錯覚を発動して回復するか試してみたが、何も変わらない。
これはホントにヤバくなってきた。
「あーあ。残念。せっかくこんなに遊ぼうとしたのに、全部ダメじゃん。じゃあ右腕の触覚を貰うね」
俺は今、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、右目の視覚を奪われていた。何故か左目の視覚だけは奪われずにいたが、もうほぼ外からの情報は得られずにいた。
身体中にナイフが刺さり、それを引き抜いて、叢雲で上書きをしたせいで、ボロボロになっていた。
「左目の視覚だけ奪わないのは何故だかわかる?見てて欲しいんだよ。この理不尽な程の力を! そして、絶望して欲しい! その顔を僕は見たいんだ」
二重複体が何か言っているが、今の俺には何も聞こえない。
何も聞こえず、何も感じない。ただ左目からの情報だけで生き長らえている。
脳のリミッター解除も使いすぎて、頭痛が酷い。
いつ死んでもおかしくない状況の中、俺は少しだけ諦めの感情が出てきそうになる。
なんの為にこんな辛い思いをしているんだろう。
こんな理不尽すぎる相手にどう勝てばいいんだろう。
そんな事を考え初めていた、その時、遠くの方で物凄い爆音が響き渡り、空に焔を纏った嵐が吹き荒れた。
「ん?何っ!?ガストロの存在が消えた! まさかあいつが負けるなんて!!一体誰だ!許さないぞ!」
ここに来て、二重複体が初めて笑みを消して、怒っていた。
俺はその光景を見た瞬間に、さっきまでの弱気な思いが消し去った。
そうか...あいつら勝ったんだな。ホントに良くやってくれた。だったら、俺もこんな奴に負けてられないな。
俺には、こんな最高の信じてついてきてくれる仲間がいるんだ。
不思議とボロボロの身体に活力が湧き、怒っている二重複体に向けて、九鬼一閃を放つ。
瀕死の俺がまさか攻撃してくるとは思っておらず、まともに受ける。黒いローブを引き裂き、紫色の肌が見え、赤い血が流る。笑っている面にも傷が入り、どす黒い血走った右目が見えた。
無敵のようなスキルの効果は発動しなかった。どうやら奴は今、楽しい気分になっていないようだ。
二重複体は、自分が攻撃を食らった事に少しの間気づかず、身体を見て切り傷がある事に驚き、俺を睨む。
「よ、よくも僕の敬愛するワイズウェイン様に傷をつけたな!もう遊びなんて終わりだ!すぐに殺してやる!」
そんな奴の怒った表情を見て、俺は精一杯笑ってやった。
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