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33話 過去と堕天

お読みいただき誠にありがとうございます(´∀`*)



「お主、その言葉、嘘偽りは全くないんじゃな?」


さっきまでの雰囲気とは打って変わり、嘘は許さんと言った顔で俺を睨む。


「はい。嘘偽りはありません」


スイエルの目をしっかり見て答えた。


10秒ほど沈黙が続く。静寂を終わらせたのは煙管の音だった。


「どうやら、ほんとのようじゃな。とんでもない事を成し遂げたのお主」


「俺一人の力じゃありません。他に仲間が三人いました」


そう言えば、アイツらは大丈夫だろうか。《観測》持ちがいたとしたら、カイル達の事まで多分知られている。

まぁ、力技でどうこう出来る訳ないけど二日酔い共だし、アザミもいるからな。



「お主の今、考えておる事は杞憂じゃよ。ここに来る前に、あの騎士共が女二人にボコボコにされておったのを見たぞ。人間と闇耳長族(ダークエルフ)じゃったかのう。」


リーシャちゃんとカオリだな。二日酔いで頭が痛い時に家に土足で上がられて大声出されて、いきなり来いとか言われたから怒ったんだろな。


「仲間がおるにしても人類が魔族を殺すなんて有り得ない事じゃ。下っ端の魔族ならわらわでもギリギリ勝てるが、人間が勝つとなると気が遠くなる話じゃ。それで、その殺した魔族の種族と名前を知っておるか?」


「ギルドマスターは魔族に詳しいんですか?」


あのステータスといい、街で見た天使達とは違って片翼が黒く、魔族の力をよく知っていそうな口ぶりだから何か知っていると思った。



「ふむ。そうじゃな。お主には言っておくべきじゃろう。わらわの名前はスイエル。元魔族、堕天使じゃった。ある出来事からこうして天使に戻れたがのう。」


スイエルは昔の事を思い出し悲痛な面持ちでそう言った。


称号に【脱却者】と出ていたから何か事情があるのは分かっていたが、まさか元魔族か。とんでもない人が人類側にいたな。


「なるほど。辛い事を思い出させてしまい申し訳ありません」


「いいんじゃよ。もう折り合いがついた。」


あの表情を見ると、とてもそんな気はしないが、ここは深く聞くのはやめておいた方がいいだろう。



「俺達が殺した魔族はタリスマンと言い、吸血鬼(ヴァンパイア)でした」


スイエルはその言葉を聞いた途端、立ち上がり、背中の翼を器用に使い、俺の目の前まで飛んだ。



「タリスマンじゃと!?あの五将血鬼(ごしょうけっき)の一人じゃぞ!そやつ。」


五将血鬼(ごしょうけっき)?それはいったいなんですか?」


「十六体いる魔王でも序列というものが存在していて、五将血鬼(ごしょうけっき)とは序列4位『哀艶天(あいえんてん)』の幹部の事じゃ。まさか、下っ端魔族ではなく、幹部。しかも『哀艶天(あいえんてん)』の所だとは驚きじゃ」



何だか話がぶっ飛んだが、タリスマンは魔族の中でも結構強者の部類の奴だったのか。あと魔王にも序列なんかあるんだな。後で聞いておこう。



「その『哀艶天(あいえんてん)』が報復してくる可能性はありますか?」


「いや恐らくそれはないと思う。妾の所属しておった所とは違うが奴はそんな部下思いではなかったと思う。 しかも今は、人類を滅ぼす最後のトドメを誰がさすか魔神同士でいがみ合っておる為、魔王がここに侵攻してくる事はない」



そう言えば、魔神達がいがみ合ってるってカイルが言ってたな。そのおかげで人類側は救われていると。

魔族総出でかかればいいのに何の為にお互いを牽制し合ってるんだろうな。まぁ俺達からしたら有難いけど。



「そうですか。質問なんですが、どうして人類側は魔族の情報を全く掴んでいないんでしょうか?」



俺はこの国に来てまずは敵を知ろうと、図書館や人に聞いても不思議と全くその情報は出てこなかった。

ここまで追い詰められているのに、普通その類の情報はあってもおかしくないはずだ。



「それは人類側がもう諦めておるからじゃよ。今更情報など集めても勝てるわけないと。それほどまでに魔族は強い。お主も戦ってみてよくわかったじゃろ? あの理不尽さを」



確かにタリスマンは強かった。魔王の幹部であの強さだ。十六天魔王と八大魔神なんて考えると諦める気持ちもわからなくはない。



「だからこうして戦争中にも関わらず、冒険者という職業が許されておるのじゃ」


「いったい何のためにスイエルさんは冒険者ギルドを立ち上げたんですか?」


その言葉にスイエルはゆっくりと机からおり、書斎の椅子まで戻っていく。



「そうじゃな。魔族に滅ぼされる前に冒険をして楽しもうなど楽観的な意見もあるが、わらわの目的は違う。Sランク冒険者には話してあるが、わらわがいた所の魔王、序列1位『堕天(だてん)』ルシファーを殺すことじゃ」




スイエルは憎悪の表情を浮かべ、拳を強く握り過ぎて血が出ていた。


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