26話 アザミとカオリ
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それは一瞬の油断でもあり見落としだった。
不明のスキルの存在をもっと重視するべきだった。
いくら悔やんでも今の状況が変わる訳じゃ無かったが、俺は自分を殴りたかった。
カオリは背中をざっくりと抉られ倒れた。
「リーシャちゃん!すぐに回復魔法を!」
「はい!天使の聖域!」
幸いリーシャちゃんの魔法で失血死する前に回復が間に合った。
完全に消滅したはずのタリスマンは俺達の背後に無傷のまま佇んでいた。
「ほぉ。素晴らしい回復力ですね。それに加えて退魔の魔力を付与出来るとは、恐れ入りました」
口調も戻り、目の前で回復されても全く次の攻撃をしようともしないその余裕に不気味さを感じる。
「いやはや、まさか《時戻し》を使う事になるなんて思いもしませんでしたよ。あなた達には期待以上に楽しませていただきました」
《時戻し》だと?
つまり、戦闘が始まる前の無傷の状態まで自分の時間を戻したって訳かよ。無茶苦茶なスキルだな。
でも、まだ俺達は負けていない。カイルは剛腕をもう使えないが、カオリは後4発弾丸を残しているし、俺とリーシャも目立ったダメージは負っていない。
時を戻せるという凶悪なスキルが連発出来るとは考えづらい。また追い込んでカオリの弾丸を浴びせれば良いだけだ。
「その口ぶりだとまるで勝負が終わったみたいな言い方だけど、まだ俺達は負けてねえぞ?」
「フフフ。いやいやもう終わりですよ。先程の攻撃には私の血を大量に含ませておきました。お連れの方の様子を確認したら如何ですか?」
まさか! 俺は最悪の結果がすぐに思い浮かぶが否定したくなって、カオリを見た。
カオリは攻撃を受けた所に立ち尽くし、上を向いていた。
落ち着いたのか、顔の位置を戻した。
カオリの瞳の色は元々翡翠色だったが、それが真紅に染まっており、口から覗く歯には人の血を吸い取るように生えた牙があった。
「おい。カオリ大丈夫か?」
その後ろからカイルが心配するように近づいていく。
「カイル!カオリから離れろ!」
その言葉を聞いて不思議そうにしていたカイルに向けてカオリは赤黒く染まった右手の爪で肩から斜めに振り下ろす。
仲間に急に攻撃されて防御も何もしていなかったカイルはもろに受けてしまう。
追撃を入れようと左手の爪でカイルの顔を突き刺そうと繰り出した。その攻撃は俺のミスリルの短剣が防ぎ、カオリと相対する。
その間にリーシャちゃんはカイルに駆け寄り回復魔法をかけていた。
「カオリ!しっかりしろ!妹の仇を取るんじゃなかったのか!?戻ってこい!」
言葉を投げかけるが「グルルルッ!」とまるで知能がない獣みたいに唸って言葉をが通じているのすら怪しい。
「ハハハハッ!少々血を多く入れすぎましたかね。普通なら意識くらいは保つはずなんですけど、あぁそれと1人ご紹介します。《眷属召喚》アザミ来なさい。そして、カオリ私の傍に来なさい」
タリスマンのその言葉にだけは反応して、俺への攻撃を中止して素早く戻っていく。
気がつくとタリスマンの傍にはカオリの髪を紫にして少し幼くした少女が立っていた。
「ご紹介します。こちらはアザミ=エンフェルト。カオリ=エンフェルトの実の妹ですよ。姉妹共々、私の眷属になって幸せそうでしょ?」
カオリが死んだと言っていた妹か。まさか生きてて眷属になっているなんて。
タリスマンの両隣には、まるで抜け殻のようになった美人姉妹がこちらを睥睨していた。
「さてと、本当は私の餌としようとしてたんですけど気が変わりました。あなた達には絶望しながら死んでもらいます。抵抗しようなんて考えないでくださいね? その場合は血の解放でこの姉妹を即刻殺しますよ? さぁかつての仲間とその妹に殺されてください。その後、カオリを人間に戻し絶望させアザミに殺させます。最後にアザミを戻して姉を殺したという絶望の最中、私が食べます。ハッハッハッ!! いやぁ最高のシナリオですね!」
タリスマンは俺達の処遇を決めて興奮したのか両手を掲げ気味の悪い笑いをしている。
ゲス野郎が。
リーシャちゃんとカイルは俺にどうする?という視線を向けてきた。
――そんなの決まってる。
「タリスマンを殺す。2人には悪いがな」
「おやおや? まさか抵抗するんですか? 殺しますよ?」
「やってみろよ。残念ながらそっちの方がお前1人になって手間が省ける」
グッと胸が締めつけられる。たとえ、奴を騙す為とは言え、俺を信じ着いてきてくれた仲間に対してこんな言葉言いたくなかった。
「人間というのは仲間意識が強く、肉親や仲間を人質にすれば簡単に降伏すると思ったんですがね...」
「いいやそれは間違ってない。だがな、俺がもし逆の立場だったら俺ごと敵を殺してくれと思う。ホントに仲間を想うなら成すべきことを必ずやり遂げる。そう思っただけだ」
強い意志をぶつけると共にタリスマンに錯覚を発動「こいつは2人を代償にしてもむかってくる」。
タリスマンとのやり取りを聞いていたカイルとリーシャちゃんは俺の意図を察したのか、立ち上がり俺の横に並ぶ。
「あぁ、そうだな。カオリお前の果たせなかった事、俺達が請け負うぜ!」
「カオリさん悔しいよね。でも必ず私達がやり遂げてみせるから!」
いいぞ2人共。タリスマンは俺達が全く動じず立ち向かう姿勢を見せたので驚いている。
錯覚発動「姉妹2人を解放せず、3対3で戦った方がいい」
前までなら戦力が減った人間如き余裕で倒せるとタリスマンは考え、2人を殺すかもしれない。しかし、奴は俺達に1度殺されてるお陰で危険視している。
だからこの錯覚が成功すると踏んだ。
俺はまだ2人を諦めてなんかいない。約束したんだ。必ず全員生きて戻ると。
「グッ! 良いでしょう! それなら私達で嬲り殺して差し上げます!カオリ先程の銃まだ撃てるなら出しなさい。そして、アザミと2人で斧使いと魔術師の小娘を殺りなさい」
命令を受けたカオリは聖なる弾丸の銃を出現させリーシャちゃんへと向ける。アザミはメイド服の袖から双剣を取り出しカイルへ突進した。
「あなたは私が直々に相手して差し上げましょう」
「かかってこいよゲス野郎」
こんな奴に俺の仲間を奪わせてたまるか。必ず2人を取り戻し息の根止めてやる。
「これは私が扱う血液魔法の中で1番強力な魔法です。【血狂月狼】!」
「ウォォォォォン!!!」
目の前に血で形成された体長6mの狼が月に向かって吠えている。
『血狂月狼』不明
使役者:タリスマン
Lv:480
HP:39805
MP:0
攻撃:36090
防御:0
魔法:0
速さ:48000
知能:0
器用:0
攻撃、速さ全ぶっぱの化け物か。上等じゃねぇか。
俺は覚悟を決め、己に錯覚を発動。リミッター解除200%
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