23話 超錯覚と終焉
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《邪竜毒砲》によって吹き飛ばされた俺は身体中の激痛で目を覚ます。
くそっ。どのくらい気を失ってた。
痛みに耐え身体を起こすと九頭竜の咆哮が聞こえた。
叫んでるって事はまだあいつらが生きてる可能性がある!
俺は100%ではなく120%の脳のリミッター解除を錯覚で行う。脳に激痛が走ったが音がした方へと全速力で駆け出した。
九頭竜の姿を確認するとカイルとカオリは毒沼に倒れ伏しており、カイルに至っては左腕が無くなっていた。そして、今まさにリーシャちゃんへと九つの頭が襲いかかろうとしていた。
120%の速度では間に合わないと判断し140%まで上げる。
脳の中でバチバチと何かが弾ける音が聞こえる。
九頭竜の横っ腹に向かってそのままの勢いで渾身の力を込めた右ストレートを思い切りぶつける。
20mは吹き飛んだ。俺はボロボロな3人を見て
「よく耐えてくれた。頑張ったな」と。
リーシャちゃんはその言葉を聞いた途端、緊張の糸が切れたのか涙を流した。
「私達、ギマンさんが死んじゃったのかと思って...それであの化け物を追い詰めたんですけど。...グスッ。」
「大丈夫だ。あとは任せてくれ」
リーシャちゃんの目に溜まった涙を拭き取り九頭竜に向き合う。
「よくも俺の仲間達を痛ぶってくれたな?今度こそ二度と再生しないようにバラバラにして灰になるまで燃やしてやる」
MPは底を尽きた。身体はボロボロ。もはや立っているのですら辛い。特に脳の損傷がすごい。
リミッター解除の錯覚を多様しすぎたのか頭の中を直接殴られているような痛みだ。
九頭竜は自分よりも遥かに種族的にも体格も存在も劣る者達にここまで苦戦したのがイラついたのか九つの首全てをこちらに向け口内に毒を溜める。
「ギマンさん。私まだ戦え...ます。」
「ギマン生きてたのか。グッ...。俺もまだまだやれるぜ」
「ホントに良かった。私もまだピンピンしてるぞ」
後ろを振り返ると3人が最後の力を振り絞るかのように立ち上がり、俺に「まだやれる」と伝えてきた。
ここで逃げろなんてのは無粋だな。
「カイル1秒でもいい!奴を引き付けてくれ!カオリ!俺を爆流風で飛ばしてくれ!リーシャちゃんは俺目掛けて最大火力の火魔法をぶつけてくれ!」
俺は信じてくれた仲間に最後「必ず成し遂げる」と錯覚を発動させた。
『スキル【錯覚】が自分に対して忠誠.好意を持つ相手に対して【超錯覚】へと進化しました。』
頭の中に流れてくる機械音に構っている暇はない。目の前には邪竜毒砲が迫っているのだから。
しかし、カイルがその前に仁王立ちした。
「ここから先は何にも通さん!たとえこの身が滅びようが!」
『【超錯覚】により【金剛】【死と踊る】を獲得しました』
九頭竜の九つ全ての邪竜毒砲が軌道を変えて、全てカイルに集約される。
その直後カイルの体が眩いほどに光り出した。
煙が晴れる。なんとカイルは無傷だった。九頭竜へと「こんなもんか!?もっと来いよ!」と挑発した。
九頭竜はカイルしか目に入らなかった。
カオリはギマンに爆流風を掛けるべく魔力を練る。しかし、こんな事だけでいいのか?と自分に問う。良いわけない。
(私はサポートしに来たんじゃない。九頭竜を倒しに来たのだ!)
『【超錯覚】により【風を操る者】【因陀羅の光矢】を獲得しました』
爆流風を放とうとした時、風の声が聞こえた。
___どうしたいの?
私は願う。ギマンを奴のところまで必ず届けると。
___わかった。
まるで風魔法という枠から外れ、風そのものを自由自在に操っているかのような感覚になった。
無事ギマンを送り出すと、言う事を聞かない身体を叱咤しながらも弓を構えた。
矢筒から弓矢を取り出そうとした時、光る矢が右手にの上に現れた。
私はそれがなんなのか考える間もなく、直感でその矢を放った。
放たれた矢は九頭竜の首一つに命中すると付け根まで光の粒子が覆い、完全に消滅させた。
カオリの爆流風とは思えない速度と精密さで飛んでいくギマンを見ながら、私は火魔法9階級の【蒼炎】を準備しながら悩んでいた。
(ギマンさんに撃つなんて...。短剣に付与するつもりだろうけど他人の魔法を使うなんて聞いた事ない。)
一般的に付与は、魔力伝導の高い武器に自分の魔力を通し魔法を発動させる。
しかし、ギマンはこの動作を他人の魔法で行おうとしていた。
(だとしたら、私が絶対にギマンに付与しやすいようにしなくちゃ!ううん、するんだ! そして私に魔法の才能があるならお願い!みんなを回復させて!!)
『【超錯覚】により【付与術士】【天使の聖域】を獲得しました』
リーシャが魔法を放つと蒼い炎がギマンの右手に握られているミスリルの短剣に吸い寄せられるように渦を巻きながら付与される。
空に淡い緑色のオーロラが発生し砕け散る。散った結晶が4人に触れると傷を癒していく。カイルは左腕が再生し、カオリは穴が空いていた右手の甲が塞がり、ギマンは頭痛が収まった。負っている全ての傷や状態異常が回復していった。
俺は九頭竜のブレスを1人で耐えながら戦っているカイルを見て、背中に感じる優しいながらも速度は爆流風とは比べ物にならい風を浴び、右手に握る蒼炎を纏う短剣を握り締めながら__「ありがとう。」と呟く。
この思いに応えるべく今から行なう事は絶対出来ると頭に思い浮かべ錯覚を発動させる。
するとそれに応えるべく頭の中から機械音が聞こえた。
『スキル【斬撃】が【九鬼一閃】へと進化しました』
九頭竜に向けて蒼炎の短剣を九回振るう。
九頭竜の身体は八十一の斬撃を受けバラバラになった後に蒼い炎で灰になるまで燃やし尽くされた。
その光景はまるで冥府の炎に焼かれる罪人のようだった。
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