22話 死闘と覚悟
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復活した3人はそれぞれ傷を負っており、毒状態にもなっている。
毒消し薬の空の瓶が地面に転がっている事からオピュロイ毒沼の毒には効き目が薄いのか全く無いのだと推察する。
短期決戦だな。
そもそも超再生持ちのこいつと長時間の削い合いをしても不利だ。
「カイル、カオリは俺と共にこいつにダメージを与えろ!リーシャちゃんは傷が出来た箇所に即座に高火力の火魔法を撃ってくれ!」
再生持ちのハンスを嬲る際にはこの戦法で再生を遅くらせる事が出来たが、こいつに通用するかはわからない。
九頭竜は俺が1番の脅威だと感じたのか蠱毒のオーラを纏いながら襲いかかってきた。
即座に円を描くように【爆流風】で回避する。20mの距離を保ちつつ高速で移動してくる九頭竜を交わすのはそう何度も上手く行きそうにない。
図体がデカい為、小回りが聞かないのが唯一の救いだったのだが、首の1本を地面に思い切り縫い付け急ブレーキを行い回避した俺に向かって方向転換してきた。
くそっ!そんな使い方あるかよ!
即座に斬撃とリミッター解除をした力で4本生えている足の内、2本を切断して動きを止めた。
動きが止まった所にカイルとカオリの魔法が飛び、首1本の損傷を与える。
再生しようとした所にリーシャちゃんの火魔法8階級の【煉獄焦土】がピンポイントで損傷した首と俺が切断した足を燃やし尽くした。
リーシャちゃんの高火力のお陰なのか燃えた所は明らかに再生が遅くなっていた。
攻略法は見つかったな。
だが、俺は九頭竜に接近された際に蠱毒のオーラを浴びてしまった。
目眩、吐き気、高熱、吐血、体が焼ける程に痛くなるが錯覚と環境適応のお陰で軽減出来た。
心配そうに見てきた3人だったが、俺が「大丈夫だ」と言うと九頭竜へと視線を戻した。
何時もならすぐ再生するはずの体がしなくなった九頭竜は燃えた箇所を噛みちぎる。すると、俺達がダメージを与えた所がすぐに再生した。
俺以外の3人はその光景に一瞬だけ囚われていた。
九頭竜はその1秒にも満たない間を使い口内に己の体内の毒を溜めた。
前方の脅威となりうる男には首6本を後ろの目障りな奴らには首3本を向けて《邪竜毒砲》を放つ。
その場に轟音と衝撃が走った。
___1秒前
俺は奴が口内に何か溜めているのを見た瞬間、命の危機を感じた。
MPを全て使い3人の前に【羅生門】、火魔法7階級【熾火獄門】、風魔法7階級【西風神の帳】をそれぞれ20発動させる。
俺に向かって放たれる物には錯覚でリミッター解除、斬撃を6つ放つ。
直後、相殺仕切れなかった衝撃波と毒に犯され飛ばされた。
カイル、リーシャ、カオリはたった今起こった出来事をただ見ていることしか出来なかった。
頼りにし、信頼し、好意を抱いていたギマンが自分達を庇い九頭竜の攻撃から守ってくれた。
だが、そのギマンはもう居ない。
自分達という足でまといを庇ったばっかりに...。
3人は悲しみよりも自分達の不甲斐なさを恨んだ。
そして、大切な人を殺した相手は目の前にいる。
やるべき事はただ1つだった。
「リーシャ!カオリ!こいつだけは絶対に許すな!ここで殺す!」
「わかってる。燃やし尽くす。」
「よくもギマンを...! 何が再生だ。死ぬまで殺す!」
カイルは蠱毒のオーラなど気にせず戦斧を掲げ斬り掛かる。
九頭竜は目の前の人間に対して嘲笑を浮かべ、無謀にも突っ込んでくる者に九つの首で全方位から襲いかかる。
しかし、多数の爆撃と風の刃により首が4つなくなった。
「【煉獄焦土】10連」
「【鎌鼬】8連」
底冷えするような声で魔法を放つ2人。
切断面を燃やされた事により再生が遅れる。
「喰らえ!戦斧迅!」
気を取られた隙にカイルが九頭竜の胴体にダメージを与える。
すぐさまリーシャが傷口を燃やし尽くす。
残った首でカイルを狙おうとしたら風の刃が飛んできて阻止される。
まずは再生を最優先させようと切断面を噛みちぎろうとしても今度はその首に強烈な爆撃を受ける。
カイル、リーシャ、カオリは今までにないくらい集中していた。
しかし、3人は蠱毒のオーラの影響で猛毒状態になって戦う事はおろか、立つことすら出来ない筈なのに強い意志と気迫で九頭竜と相手していた。
分が悪いと感じたのか、口内に毒を溜め《邪竜毒砲》放った。
カオリとリーシャは魔法で障壁を張り、カイルは斧を盾にして衝撃波から耐える。
そして、すぐさま攻撃へと転じる。
鬼気迫る勢いで九頭竜を残り首2本までと追い詰めたがここで異変が起こる。
1番近くで蠱毒のオーラを受けていたカイルが突然、大量の吐血をしながら地面に膝をつく。
「くそっ!!こんな所で...ゲホッ!」
「お兄ちゃん!!」
「カイル!!」
2人がカイルに近づこうとした時、九頭竜が好機と地面に膝をつき動けないカイルに噛み付く。
カオリが咄嗟に【爆流風】を発動させ移動させたが、カイルの左腕は付け根から完全に喰われていた。
「ぐあぁぁぁぁ!!くそ!【火焔】!」
喰われた左腕を即座に焼き、失血死を防いだ。
「俺の傷はほっとけ!それより奴に再生する暇を与えるな!」
カイルは左腕を失おうとも戦意は失わなかった。
だが、前衛のカイルが欠けてしまった代償は大きい。
次第に劣勢になっていく。カオリとリーシャのMPも尽き始めた。
猛毒が完全に体を全体に回り始めた頃、九頭竜が追い討ちに大きな咆哮を上げながら邪竜毒砲を放った。
今の3人に防ぐ術はなく直撃した。
カイルとカオリは地面に倒れ伏していた。リーシャは2人よりステータス差があるのか杖を支えにして立ち上がろうとするが目の前に再生したのか九つの頭と目が合った。
(ギマンさん。仇取れずにごめんなさい。大好きです)
リーシャは最後に想いを寄せていた人に届く筈のない言葉を思い浮かべた。
九つの頭がリーシャに襲いかかろうとした。その時__
「よく耐えてくれた。頑張ったな」
そんな優しい言葉が聞こえたのと同時に体長10mある九頭竜が吹き飛んだ。
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