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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は訪ねてきた人に驚く

「あ」

 昼を見た時に一瞬、驚いた顔をした後、その人は遠慮がちに問いかけた。

「えっと、夜さんはいらっしゃいますか」

 背は昼より頭ひとつほど高い。ほっそりとした体に、大きめの鞄を背負い、途中で脱いだらしい上着を手にしている。三つ子の上着によく似た淡い黄緑色の上着。

「あの」

「え、アシ?」

 戸惑って立ち尽くしている昼の横をすり抜けるようにして扉から出た夜が伸ばした腕を、アシの腕がしっかりと掴んだ。

「久しぶり」

「どうしたの、どうして」

 夜の不思議そうに見開かれた大きな瞳を見返しながら、アシは照れたように笑った。

「うん、ちょっと」

「ちょっと?」

 笑顔のまま、アシが躊躇うように夜の背後を見たので、夜は慌てて、昼と、扉まで出てきていた恩師にアシを紹介した。

「こちらアシさん。えっと、旅先でよくしていただいたの」

「アシさん。お名前は伺っています。昼です。妹がお世話になりました」

 丁寧に頭を下げた昼に、アシは「いえ、そんな」と呟く。

 恩師はうんうんと頷いた後、「遠くから来たね」と微笑み、アシの後ろで所在無げに立っていた弟子を手招きした。

「ここまで連れてきてくれたんだねぇ。ありがとう。馬車を借りたんだね、よくできたねぇ。じゃあ、一緒に帰ろう」

「先生?」

「でも」

 昼と夜の驚いた顔に、恩師は軽く首を振った。

「いいんだよ。また来るからねぇ」

 恩師はアシに視線を移し、アシの背中の大きな荷物を見て、誰も気がつかないほど微かに悲しそうな顔になった。

 いいからいいからとさっさと馬車に乗り込んだ恩師に、アシの腕から離れた夜は、「あの、明日、お伺いします」と馬車の中を覗くようにして声をかけた。小さな箱型の馬車の中で、恩師は夜が思っていたよりずっと強い顔で、夜にだけ聞こえればいいというほどの声で頷いた。

「できれば早めに来てくれるかい」

「わかりました。必ず」

 恩師を見送って振り返ると、昼は「お茶の用意をしているわね」と家の中へ入り、夜はしばらくぶりに会うアシに改めて向き合った。

「……背が、伸びた?」

「ははは、うん、少しだけね」

 切れ長の目が三日月の形をする。きれいな三日月が嬉しそうに夜を見ている。その三日月が少し揺らいだ。

「あの、ふたりで話がしたいんだけど、いいかな」

「ええ、もちろん。小川の方へ行きましょうか。でも疲れているんじゃない? ここまでかなりかかったでしょう。お茶を飲んでからの方がいいかしら」

「まっすぐに来たから大丈夫。あ、でも荷物は置かせてもらっていいかな」

 夜は再び頷いた。

「もちろんよ」

 昼に声をかけて荷物を置いてから、ふたりは家の横を緩やかに下ったところにある小川に向かった。初秋の風は冷たかったが、あの海になれなかった海の砂浜を歩いた時のように手を繋いで歩いていくには、それほど気にならなかった。 


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