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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は恩師の願いを聞く

 恩師には珍しく、言葉がなかなか出てこないようだった。

 それでも昼も夜も口を挟まず恩師の言葉の続きを待った。

「連絡といっても、何も直接行ってくれと言っているわけじゃないよ。手紙を、そうね、近況を尋ねるついでに、変わったことが起きていないかどうか聞いてほしい。こんな時だから物騒なことかもしれないんだけれど、なにしろここに入ってくる情報は遅い」

 恩師は皺を伸ばすように、右手で左手をさすり続けている。

「寺院の間での連絡を前より密にしているんだけれど、宗派間でうまくいっていないところでは情報も滞りがちになってしまうんだよ。偏りも出ていて、情報の精度が落ちている」

 恩師はひとつ溜息をつく。昼と夜はちらりと顔を見合わせてから、揃って恩師の顔を見つめる。

「私は教え、学ぶことは好きだし、信仰心も持ち合わせていると思うんだが、人付き合いはそれほど得意ではなくてね。友人も同士もいるが、多くはない。いままではそれで事足りていたけれど、どうもそれでは間に合わなくなっている気がしてねぇ。村以外に知り合いを持っている人はいくらもいるけれど、誰にでも頼めることでもない。なにしろ、この国、この村ではまだ何も起こっていないからねぇ」

 今度は少し長い溜息をついた。すかさず、昼はお茶を差し出す。

「ありがとぅ」

 少しぬるめに入れたお茶を飲みながら、恩師は束の間、口を噤んだ。

 開いた窓から入ってきた風が少し強く、戸口で立つ夜のスカートを揺らした。夜は窓を閉めようと部屋に入りながら、また吹き込んだ風に体を震わせてやっと、もう初秋だと気がついた。

――いつのまに。

 今年の夏の記憶は多すぎる。

 家を出たのは初夏だった。暑くなってきたのに、厚手の上着を持っていって後悔した。いくつかの町を訪れて戻って、昼と一緒に畑の世話をし、家の手入れをし、朝の行方の心配して、ついこの間やっと手紙がきて安堵をしたばかりなのに、すでに季節は移っているのだ。

 夜は窓をきっちりと閉め、部屋の中を振り向いた。おそらく同じことを思ったのだと、昼の目を見てそれがわかった。

 姉妹は軽く頷きあいながら恩師を伺い、恩師が再び話始める前に、夜が口を開いた。

「あの、先生」

 だが夜よりも先に、玄関のベルが大きな音を立てて喚いた。


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