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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は背筋を伸ばす

「要の国で、一番求心力を持っていた寺院の官長が行方不明になっているって話が伝わってきてね」

「行方不明、ですか」

「それは、逃げちゃったってことですか」

 夜はぎょっとして昼を見た。昼がこんな直截な言葉を使うとは思ってもみなかった。

「あはは、言っちゃうねぇ」

 恩師は笑いながら、「ちょっと違うかなぁ」と首を振った。

「おそらくだけれど、国を出ているわけではなくて、身を隠して内乱を押さえるための手立てをしているんだと思うんだよねぇ」

 行方の知れない官長その人を知っているかのように恩師は目を細めた。

 ふたりがなにか言う前に、恩師は再びジオラマに指を伸ばした。

「まあ、そこら辺はね、憶測にすぎないからわかんないんだけどねぇ。とにかくこの国の騒ぎがここ、ここ、ここと、って具合に広がっていって、周辺の5つの国では出ることも入ることもできなくなっているらしい。だから、このどこかの国に朝ちゃんがいるとしたら、今は国を出られない状態になっていることになるんだけどねぇ」

 ふたりは息を呑んだまま、恩師の言葉の続きを待った。

「これもおそらくだけど、この手紙を出したのは、ここのどこの国でもないと思うだよねぇ」

 恩師は再びちょっと遠い目をしたが、それを遮ったのは夜だった。

「それはどういう理由からでしょうか」

 夜の言葉使いはそれほど厳しくはなかったが視線は強く、大きな目できっちりとまっすぐに恩師を見つめている。

「……理由ねぇ。理由をちゃんと話すと長くて危うくなってしまうので」

 危うく。

 昼はちらりと夜を見上げた。

「知ることは助けになる。なるべく沢山知った方がいい。これはいつも言っているでしょう」

「はい」

 夜が答え、昼は頷く。

「それでも知ったことで困ることってのもあってさぁ。とにかく今はあまり詳しくは言いたくないんだよ。もし必要ならきちんと説明するからさぁ。でもね、手紙を出した国にいても、そこから出たとしても、朝ちゃんは無事だと思うんだよねぇ。手紙が出せる状況にいたというのは、この連れの、ええっと」

 夜と昼は視線を合わせ、ふたりの声が重なって恩師に答えた。

「ハバラさん」

「そう、そのハバラさん。きっととってもすごい人なんだよ。なにがすごいかってのはよくわからないんだけどさぁ。ハバラさんのおかげで、無事でいると思うの。で、朝ちゃんのことはちょっと安心していてもらってもいいと思うんだけど」

 そこで恩師が居住まいを正して、昼と夜を順に見つめた。

 釣られて背筋を伸ばしたふたりに、恩師は珍しく笑顔を消して話し始めた。

「お願いがある。君たちが行ったという国の人たちと連絡を取ってくれないか」

 



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