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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は尼僧の手伝いを得る

「旅の支度はハバラの方がよくわかっているだろう」

「ああ」

「巡礼のための支度を手伝おう。いまから言うものを揃えて」

 ハバラが黙って紙を取り出した。フォン師が必要なものを口にしていく。インクを付け足す間もないぐらいの早口に、負けず劣らずの速さで書き記していく。朝は横から、ほうほうと眺めるばかりだ。

 ひと通り書き上げたものを見ながら、またフォン師が付け足していく。かなり多く列挙されたそれらの、それでも半分以上は何の用途に使うものか朝にはわからない。

「これは?」

「祈りに使う」

「これも?」

「これは食事に使う」

「使ったことないけど」

「使うのは巡礼者だけだ」

「これは?」

 答える前にハバラが顔を顰めた。

「あ、ごめんなさい。後で纏めて教えて」

 フォン師が、あはは、と笑い声をたてた。

「愉快だ」

 ハバラは返事もせずに、顰めた顔をそちらへ向ける。

「まあ、そう怒るな。相変わらず短気だな」

 そう言ってからフォン師は立ち上がった。

「ひとまずはそれだけ揃えればなんとかなるだろう。揃ってから使い方を説明した方が理解しやすいだろうし、その前に必要な手順を教えよう。1回2回では覚えられないだろうから、しばらく通うといい」

 朝はハバラの顔を見て、それからフォン師に頷いた。

「わかりました。お願いします」

「うん。明日から来なさい。あそこの」

 フォン師は庵の小さな窓を開けて朝を招いた。最初の印象通りの背丈だが、近くで見る肌はぱっと見より若々しい張りがある。皺が多く節だっているが、大きくがっしりした手を窓の外へと示す。

「畑にある草の利用法から教えよう」

「はい。ありがとうございます」

「細かな話は聞いていないんだが」

 フォン師が背後に立ったハバラを振り返った。

「それは説明してくれるのかな」

 朝が驚いて口を挟んだ。

「あれ、話してないの?」

 ハバラが「いや、副院長がして」と言いかけ、フォン師が「余計なことは言わない人だから」と続ける。

「話せないことなら無理する必要はない」

 朝は更に驚いた。

「いいんですか?」

「うん。一応聞いておこうかと思っただけだから。ギュイットが話さない方がいいと考えているならそれでもかまわない。事情があるんだろう?」

 言われた朝は首を捻った。

「事情。あるのかしら」

 朝はハバラを振り仰いで、一層険しくなった顔に肩をすくめ、フォン師の笑いはしばらく止まらなかった。



 

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