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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は尼僧と会う

「他の宗教も考えたんだけれど、やはりそこまで変えてしまうとごまかしきれないと思ってね」

 そう言ってギュイットが紹介してくれたのは、寺院の敷地内で小さな庵を持っている尼僧だった。

「ああ、はいはい。聞いてる聞いてる。そこら辺に座って。茶ぐらい入れるから。なに、大丈夫大丈夫。茶ぐらい。あああ、悪いね、じゃ、頼むわ」

 尼僧に代わってハバラがお茶を入れることになるまでのスピードがあまりに早くて、朝はまったくついていけない。

 ハバラは尼僧が話し始めた時から、というか扉を開けて入った時から、朝をテーブルに案内しながら散らかったあれこれを脇へどけ、テーブルの上と椅子の上に乗っているあれこれも器用に捌き、唯一ホコリのかけらもない庵の隅の竈へと行って持参した水で茶を入れた。

「残りの水は置いておくから」

 言いながら、取り替えた乾いた水瓶をさっさと庵の外へ出す。

 そうしてからやっと、ハバラは朝の横に腰かけた。尼僧はすでに、美味しそうお茶を飲んでいる。

「すまない。えっと、久方ぶりだけど、今はなんて言うの。まだ名無しなんだろ」

「ハバラで」

「ああ、そう。ハバラね、ハバラ。じゃ、それでいくわ」

 尼僧はそこで、にっこりと朝に笑いかけた。

「初めまして。ツヅテット・テ・フォンと言う。よろしくな」

 日に焼けた肌は皺が寄ってあちこちにシミが浮いている。ごつごつとしているが全体に小柄で、おそらく朝の肩ぐらいまでの背丈しかないだろう。だが骨太い体格からすると体重は朝よりあるかもしれない。尼僧と言っても被りものをしていない。およそさっぱりと刈り上げた髪は真っ白で、目も鼻も口も大きい。そして声が低い。低くて太い声で尼僧は続ける。

「フォン師と呼んでくれて構わない。師をつけろというのは傲岸に聞こえるかもしれないが、つけるなと言うとそれもいかんらしい。肩書などは捨ててきたから要らないんだが」

 そこでフォン師はぐびりと茶を飲み干して、大きく息をついた。

「世の中ってのは面倒だ」

 朝はもう黙って聞いているしかなかった。けれどもハバラが巡礼を言い出さなかった理由は宗教とか宗派とか難しいことではなく、ただこの人にあるのではないかと、漠然と考えた。


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