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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝はギュイットの提案を聞く

「巡礼、ですか」

「そう。でもまだしばらくはここから出ない方がいいと思う。だからその間に巡礼の準備をしておけばちょうどいいでしょう」

「準備、ですか」

「ただ生憎、私たちの宗派に巡礼者はあまりいないので」

 朝は黙って聞いているハバラの眉間の皺を見て、これまで巡礼と言われたことが無かったことを思い出した。

「そうなんですね」

「そう。全然いないわけではないけれど、修行はひとりで世俗の中で行うものが1番多く、次は所属する寺院内や周辺での修行だね。他の寺院で修行をしたりはするが、巡る者はあまりいない」

「それはそういう教えなんでしょうか」

「いろいろあるが、あまり推奨していないんだよ。だから、巡礼するとなると他の宗派や宗教を頼った方がいい」

「他の」

 ハバラの眉間の皺が深くなって目の前の空を睨んでいるようになっているが、口を開かないからギュイットにはわからないだろう。ハバラは巡礼というより、他の宗派などに抵抗があるのかもしれない。

「他のといっても全然別のというわけではないよ。それこそ真似などできないし、すぐに襤褸が出て危うくなるだろうからね。ハバラ、そんなに怒らなくてもいい」

 普段通りに微笑みながら、ギュイットは顔をハバラに向けた。

「や、俺は」

 ギュイットは頷きながらハバラの言葉を止めた。

「お前もきっと巡礼を考えただろうことはわかっているよ。そして無理があると思ったんだろう。私も、いっそ商人夫婦などになってみるのもどうかと思ったんだが」

 ハバラはぎょっとして口を開けたまま止まり、朝は「へぇ」と声に出してしまった。

――考えたことも無いことばかり。

 ギュイットは「ふふふ」と声にして笑った。

「それでもね、商人夫婦にしてはふたりとも目立ちすぎるようだからね」

 港町の寺院だから、村にあった寺院よりも、そして前より厳しくなったらしいのに、人の出入りが多いと朝も感じていた。寺院の中にいるのに、やたらと声をかけられるのも不思議なほどだ。

「目立っても商人らしく見えればいいのだが、どうもハバラにそれは向いていないと思うんだよ」

「そうかも。そうですね、ちょっと無理がありそう」

 小さな村の中でも商売の上手い下手というのはあった。人が良くても苦労している人もいるし、どうも感じが悪いのに上手く立ち回って儲けている人もいる。

 ハバラはなんでもできるようだけれど、商売に向いているようには見えない。つまり、諸国を渡り歩くような商人には見えないということだ。

 率直な朝の言葉に、ハバラの顔は更に歪んだが、朝は見ていないことにした。

「商人の支度というのも大変だしね、何を売り物にするかも難しい。その点、巡礼ならいくらでも整えられる。それでね、会ってみて欲しい人がいるんだよ」

「え?」

「それは?」

 朝とハバラの声が重なった。

「良ければ紹介しようと思っているんだが、どうだろう」

 誰をとは言わずギュイットは口を閉じ、ふたりの返事を待った。

 

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