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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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ギュイット、朝の行き方を考える

――本当に、ずいぶん手馴れているようだ。

 ギュイットは、朝が整えた薬草を点検しながら微笑んだ。

 束ね方も葉の向きもきれいに揃っていて、触ってみるだけで丁寧だとわかる。頼んでから出来上がりを告げるまでも早い。ひととおり教えただけで覚えてくれて助かると、薬草園を仕切っている僧侶が報告にきた。いつもは言葉少なな者が、とてもきれいな人なのにものおじもせず汚れも厭わずに仕事をしてくれると弾ませる声音には、思わず苦笑が出たものだ。

 農作業の他にも手伝いの手はいくらでもいる。女性だと手に余る事も多い力仕事でも、コツがあると言ってなんでもしてくれてかなりの助けになると、これは保守点検担当の僧侶からの言葉だ。大がかりな整備ではなく、工具を直したりなどの作業らしいが、気の付き方が違うと、これもまた滅多に褒めない者の言葉に驚かされた。

 本人にそれらを告げると、「喜んでいただけてよかったです」と言った後に、「直すのは夜の方が、薬草とか草の扱い方は昼の方が上手にできるんですけど」と付け加えた声は、寂しさよりも心配が濃かった。

 薬草を乾燥させる作業所を出て、中庭を横切る。

 ギュイットは何も掴まるところが無くてもすいすいと動けるが、中庭や畑ではたまに動物の掘り起こした穴があって躓くことがある。そうして僧衣を汚すと、だから杖を持ってくれと怒られることもあるが、慣れた場所で不慣れな道具は使いにくい。

 朝は目の見えないギュイットにも慣れるのが早かった。

「亡くなる前の父が、かなり目を悪くしていて」

 両親揃って亡くなる数年前から少しずつ見えなくなっていったらしい。そこで三つ子は家の手伝いを早くから覚え始めたようだ。家事の手伝いのみならず、家の修繕から畑の世話まで、教えてもらっていなかったら、周囲の手助けがどれだけあっても3人きりで暮らすことは困難だっただろうと言っていた。

 微笑みを含んだ声音から、朝が、教えて貰っていたいろいろな事ごとをとても誇らしく思っていることはよく伝わってきた。

「目が見えなくても生活ができるようにと工夫も始めていたんですけれど、それも前のことなのでかなり忘れてしまいました」

 テーブルにあるお茶の位置を見習い僧侶が間違え、付け足しの湯が入った水差しをギュイットが袖にかけてしまうところだった時、朝は「水差しがあるので動かします」と声をかけながら、そっとギュイットの腕を押さえた。押さえたのもほんの少しの間で、すぐに「どうぞ」とギュイットの右手にカップの持ち手を差し出してきた。

 確かに気の使い方が慣れている。

 言葉の端々から明るい性格なのはよくわかる。言葉の選び方から賢い人だともわかる。そしてきれいな容姿をしているらしい。手伝いをさせている僧侶たちが嬉しそうだ。

 ギュイットに容姿はわからないが、どうやら目立つらしいその顔立ちにハバラは手を焼いていることはわかる。旅に目立つ事ははあまり必要ない。

 そもそもハバラもかなり美しい容姿らしいから、ふたり揃えばそれは目立つものだろう。

 ギュイットにわからなくても、周囲の僧侶にはわかる。浮かれないよう修行をしている僧侶達が浮足立っている様子から、僧侶でない人達からもどれだけ注目を浴びるかもわかるというものだ。

――問題はこれから。

 このまま出家をするなら修行としてこのまま預かることも可能だが、そんな気はなさそうだ。

 とにかく情勢が落ち着かなければここを出すのは不安である。ハバラが情報を集めに行ってきたいと言っているが、そのハバラ自身も危ない目に遭わないとも限らない。なにしろどこからも治安が悪化している、政事が落ち着かないなどの話しか聞こえてこない。

――どうしたものか。

 新しい穴に陥ることもなくギュイットは僧院の厨房の裏口へと辿りつき、そこで携えている鐘を鳴らして到着を告げた。

 パタパタと走りよってくる近習の足音を聞きながら、ギュイットはひとつ、思いついたことがあった。


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