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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は持ち込み、昼は驚く

 朝からの手紙が届いた翌日、夜は恩師を尋ねた。昼が畑の見回りと収穫を済ませ、簡単な食事を取り、次に売りに出す物を仕分け終え、翌日のパン種の仕込みをしている時に、夜は借りた荷車を引いて帰ってきた。

「え、なにこの大荷物。まだ買うものあったの?」

「違う違う。これは先生から」

 荷車からふたりがかりで下ろしたのは大きな木箱がふたつで、ひとつには大型の本が数冊と紙の束を括ったものがいくつかで、これは「新しい情報だから」と恩師がこのところ少しづつ集めてくれていたらしく、村の人たちにはナイショだよと、それでも自慢げに披露して、夜の目を白黒させた。

 もうひとつの箱には変わった形の板が数枚入っていた。

「壊れると危ないから手を貸して。客間の机の横に置くから」

「……うん、わかった」

 息を切らして運び込んだそれを、夜は1枚ずつ取り出すと机の上に並べ始めた。

「たぶんこれはこっち。かな。これはええっと、右? あ、下が合わないか」

 ぶつぶつ言いながら、そろそろと板を並べ替える。

「ちょっと狭いわね。私の机も持ってこようかしら」

「夜の机だと高さが合わないんじゃない?」

 客間の机は普段使わないので、泊まりに来た人が荷物を置けるぐらいの広さしかないし、腰までの高さも無い。

「まあ、そうね。私の机は引き出しも付いているから面倒だし」

「ねえ、広さが必要なら、ベッドの上でいいんじゃない? 布団をどけてしまえばいいのよ」

 夜は「ああ」と目を見開いて昼を見つめた。

「それは名案」

 かくして、客間のベッドの上の布団は剥がされ、そこには数枚の板が並べられた。板にはどれにも、細工を施されたいろいろな形のものが張り付けられている。

 出来上がったそれを見て、今度は昼の目が見開かれた。

「ええっと、これ、もしかして、これは山?」

「そう、これが北の山脈で、真ん中が砂漠。こっちが南の山岳地帯で、左のここが」

 夜の指が細長い青い線とその横にある少しだけ太目の線状の空間を示した。

「この国」

「ここの国? 私たちの住んでいるこの国ってこと?」

「そう。こうして見ると、小さいっていうか、案外狭いっていうか」

「ええっと、それよりこれはなに?」

 昼の見開いたままの目を見つめて、夜は「そっか、そうよね」と苦笑した。

「私もさっき教えてもらったばかりなの。先生がどうしても持っていけって。地図の国名は変わるけど、地形は変わらないからこの方がわかりやすいだろうって」

 それからベッドの上のものを改めて見直してから、「これはね」と言った。

「ジオラマって言うんですって」

「ジオラマ」

「の、簡単なものって言ってたけど」

「簡単なジオラマ?」

「そう、簡単なジオラマ」

 昼は「ふうん」と呟いた。

「簡単でないものだと、きっとベッドは重さで潰れていたわね」

 夜はそれには答えずに、「他の物もこっちに運び入れた方が便利ね」と、客間を出た。

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