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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は修行を名目にする

「鍵を作れるのは僧侶だけだ。偽造というわけではないよ」

「そ、それはなにより」

「もっとも許可がいるものだし、許可を出せるのはそれなりの地位のある僧侶だから。そうだね、この寺院では院長だけだね」

 やっぱり偽造じゃないか。

 朝は黙って鍵と言われた腕輪を見つめた。

「ここはまだ鍵を見せるだけで通行できる程度に抑えているが、本来、鍵は開けるものが無ければ用をなさない。腕輪の内側にある安堵・信頼・真実のどれかの彫りの溝に合うものが各関所に置いてある。どの溝でもいいから合うこと、外側の名前にある寺院名が登録してあること、その2つが合って初めて通行できる。もっと大事な施設に入るには、腕輪を嵌めたまま扉を開ける必要が出てくるが、あなたはそういったところに行くことは無いだろうから大丈夫。心配いらない」

 なんとなく物騒な事を言われた気がしたが、とりあえず朝は「大丈夫」というところだけ覚えておくことにした。

「わかりました。じゃあ、この町にいる間は嵌めていればいいんですね」

「そうだね、それが安全だろう」

 ギュイットはとても柔らかく微笑む。開かれない瞼は、そうと知っていなければ微笑むために閉じているだけのように、ずっとゆるい弧を描いている。

「腕輪はつけていればいいし、それに」と、ハバラが口を開いた。

「皇族云々の話は保留しておいても問題なさそうだ」

「ああ、私の」

 両親が生まれた国の高貴な血筋に連なる顔、とまでは言わなくても似ているかもしれないという、目立つ目立つと言われるこの顔。

「血筋などはこんな短期間では調べもつかないが、その国、名前は言わないぞ、その国ではいまのところ政治的な混乱は起きていないし、皇族関係の問題も持ち上がってはいない。もちろん内情はわからないままだが、関わることさえなければそれ以上知る必要は無いし、お前を見てすぐに皇族と結びつける人間はそう多くは無い。あの車掌が滅多にないひとりだとすれば、続けて2人、3人と出てくる確率は高くないだろう」

「な、なるほど」

 わかるような、わからないような。100人のうちの1人があの車掌だとすれば残り99人は知らないと言う理屈だが、最初が当たりなら、他にもいるかもしれないとも考えられるのではないのだろうか。

 朝がそう言うと、ハバラは「そう、実は多くの人間が知っているから、最初から当たりを引いたとも考えらる」と頷いた。

「だがたとえそうだとしても、お前が皇族であるかどうかはわからないし、そのために狙われたと考えるほど情報は出回っていない。皇族となれば、あんなならず者が狙えるような血筋ではないし、ならず者までが知っている情報を俺が知らないわけはない」

 それはそれは自信満々に言ってのけたので、朝は「わかった」と答えるしかなかった。

「この町なら情報も得やすいし、他国の人間を排斥する気運は薄い。無いとは言わないが、比べれば安全だ。だからこれからのことはここで情勢を見ながら決めよう」

 今度はハバラの後をギュイットが続けた。

「ここにいる間は私の手伝いをすればいい。修行のために来ているのならおかしくはない」

「よくあることなんですか?」

「稀ではないよ。このところ手が足りなかったからちょうどいい。さて」

 ギュイットは立ち上がると、「明日から少しずつ、手伝っておくれ。2番の鐘が鳴ったら私のところへ来なさい」と言いおいて出ていった。



 そうして朝は今日1日、中庭で薬草の採取に明け暮れ、久しぶりの土いじりになんだかやっと深い息ができた気持ちになった。


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