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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は港町の寺院で

 港町は毎日賑やかだ。船が入ってくる時も出ていく時も、いつでも人がいる。警備の厳しいこの町でも、それはそれはたくさんの人々が出入りをしている。

 それでも1日が切り替わった後、しばらくの間だけしんと静まる時間がくる。その短い時間を終わらせて新しい1日の始まりを告げるのは寺院の1番高い塔の鐘の音だ。

――ずいぶん、高い音だ。

 ここに着いてしばらくはそんな余裕も無かったが、体調が回復して祈りの時間を講堂で参加できるようになってから、朝は鐘の音の種類の多さに気がついた。

 1日の始まりの鐘。終わりの鐘。食事の鐘。休日の鐘。あまりの種類の多さに、これを聞き分けているのだろうかと不思議に思うぐらいだが、どれほど幼くても鐘を間違えることはないとギュイットは微笑んだ。

「私のように見えない者には有り難いことだ」

 聞き取れない人もいないわけではないが、それは互助で補っていると言われた。港町で国境も近いこの町では、互助の仕組みが発展しているのだという。

「この僧院を中心にしているんだよ。他の宗教の人達が来ることができるようにしたのは、いまの院長の代からなんだけれどね」

 ギュイットは僧院で育っただけあって、僧院の歴史に詳しいことはもちろんだったが、近隣の治政もよく知っている。ハバラにわからないことも、ギュイットに聞けばわかる。院長はギュイットにわからないことは自分にもわからないと言っていたが、実は院長はなんでもよく知っている。ただ時間が無いので話をする機会が少ないだけだ。



 そこでギュイットを、ハバラが言うにはグラカエスと同じ程信頼ができるこの人物を交えて、昨日、やっとここまでのいろいろな話をすることができた。ギュイットに同席を願ったのは、この先どこへ行くにしても誰かの力を頼らなければならないからだ。

 そして結局は、もう少し情勢をうかがった方がいい、という結論にいたった。

 なぜか。

 まず、列車での出来事は、どうやら尼僧を狙ったというより、他国の女性を狙ったものであったらしい。あの時の車掌や、近隣の駅員、警邏の人々から近くの軍まで、さまざまな方向から情報を集めたところ、あの国お内乱に端を発したと思われる誘拐事件が数件起こっていることがわかった。誘拐ということから、表立って出てくる情報は少なく、またその数自体も把握できないが、複数あることは間違いないようだ。

「身代金というより、人質が欲しいようだ」

「人質?」

「身分に関係なく、自分たちとは違う顔や言葉ということで、利用価値があるということだ」

「利用価値?」

「引き換えを要求しないから人質というわけではないかな。その国に関する情報を得るには、その国の人間が1番ということだ」

「それで、誘拐をするの?」

「利用したい人間がいれば、そこに売る人間もいるということだな」

 言葉を無くした朝の横で、ギュイットが「残念なことだが、どの国にでもそういう人はいるものなんだよ」と、見えるように朝の顔へ向けて悲しい微笑みを浮かべた。

「自分より弱い者なら攫いやすいし、尼僧なら金も持っていると踏んだんだろう。あとは俺が舐められたんだな」

 ハバラが浮かべた表情を見ながら、朝は「それは馬鹿者ね」と呟いた。


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