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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜と昼に手紙が届く

 扉を開けると立っていたのは僧侶見習いの少年で、両手で大きな籠を抱えていた。

「あ、あの、これ」

 まだ幼さの残る面立ちの頬を真っ赤に染めている。夜が「わざわざありがとう」と言って差し出した手に籠を渡すと、これ以上とは思えなかった頬を更に赤くして、「いやつべつあのつっ」と、なにかよくわからないことを叫んで走って帰ってしまった。

「いつまでも、慣れてくれないねぇ」

 夜の背中に、昼が声をかけた。手には小さなカップを持っている。いつもここまで来てくれる少年に冷たい水だけでもと思って急いだのだが、これまで渡せた試しがない。

「私たちももう少し寺院に顔を出せば慣れてくれるんだろうけどね」

 三つ子の家を訪れる人は少ない。畑の世話を手伝ってくれる村の人と、作物を取りに来てくれる御者の男と、今年になって急に背が伸び始めた少年ぐらいだ。友人もいないわけではないが、そもそも家に招くという事を三つ子はあまり好まない。

「そうねぇ。それで、今日は何を持ってきてくれたのかしら」

「けっこう重いわ」

 テーブルに籠を置くと、覆ってある刺しゅう入りの厚手の布に、ふたりは揃って微笑んだ。寺院の賄いは村から通っている数人の女性が作っているのだが、そのうちのひとりはまだ三つ子が学校に通っていた頃、新しい下着や小物が手に入るようになにかと世話をしてくれた。いまでもこうした機会があると布巾などを差し入れずにはいられないのだ。

「チーズと」

「この間、あまり買えなかったから」

 女性は家族と小さな食料品店を商ってもいる。

「痛み止めの薬と傷薬と肌荒れの軟膏と。薬草。こんなにお願いしたの?」

「もう残り少ないから。でもこの香草は頼んでないけど」

 寺院は薬草類を一手に引き受けて運営の足しにしている。自分たちで作るには手が回らないので、高めではあるが、種類の多い薬草が手に入る寺院の畑は大いに助かる。

「この香草は私がお願いしたの。手に入るとは思ってなかったんだけど」

「……そう」

 ふふふっと笑った夜に、昼は小さく肩をすくめた。

「あとはおばさんのパイと。ミルクも入ってる。重いわけね。え、これは」

「何?」

 夜は薄い封筒を籠の底から取り出した。

「手紙」

「手紙、ね。……えっ、もしかして」

 夜は表にも裏にも三つ子の宛名しか書かれていないことを確かめてから、1度、昼の顔を見た。

「……開ける?」

 夜は何も言わずに頷くと、封を開けるために傍の小さな棚から薄刃のナイフを手に取った。


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