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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜はため息をつく

「世界って広いのね」

「そうね。こんなに国があるとは思わなかったわ」

 昼と夜はこの数日、恩師に借りた本と地図で勉強をしている。いまの時点の世界情勢にできるだけ近い物をと、夜と会った翌日にわざわざ家まで持ってきてくれたのだ。それでも何年か前の地図なため、変わってしまった国もいくつかあると、見知った小さな文字の注意書きまで用意してくれ、ふたりはひたすら恐縮してしまった。



「あとねぇ」

 自身はこの村からほとんど出たことのない恩師は、ゆったりとした抑揚のまま、ふたりの顔を見比べながら言った。

「朝ちゃんがいないって、他の人には言っていないよね?」

 夜は昼を見た。

「私は御者を頼んでいる方に朝を見かけたか尋ねたのと、先生にお話をしたのと、それだけですね」

 昼も夜を見た。

「私はちゃんとは聞いていなくて。ええっと、なんていうか、私たちを区別できない人がほとんどだから、お久しぶりですとか声をかけて、返事の感じで、その先を聞くか決めて。ってその先を聞けた人はいなかったんだけど。久しぶりって言う人たちばかりで。あ、あのお店のおばさんだけ、3人の区別がつくようになったって言ってたわ。それで朝は見かけていないから区別がつくかわからないって。きちんと聞けたのはそれだけで」

 昼はごめんなさいと言うように肩をすくめたが、夜は昼が話を聞いて回れたことに驚いていたし、恩師は「それで充分」と頷いた。

「なかなか考えたねぇ。君たちの違いがわかるようになった理由は私にもわかる気がするけれど」

 恩師はふたりを見比べ、「うふふ」と可愛らしく笑った。

「大騒ぎにしてしまうと、いらないことまで入ってきたり、悪いものを呼んだりするからねぇ。慎重になるのは大事だよ。それにこうして並んでいるところを見たり、始終会っていたりしないと、わからないだろうから、そのままにしておきなさいな」

 昼は素直に「はい」と答えたが、夜は少し考えてから黙って頷いた。

「なにかわかったらまた来るからねぇ。あまり無理をしたり、心配しすぎないようにねぇ。あんがい、すぐに戻ってくるかもしれないよ。お土産持ってね」

 恩師は昼の焼いたパンを抱えて帰っていった。



「結局は帰ってくるか、なにかしらの連絡が来るのを待つしかないのかもしれないけど」

 地図に細かい字にと、使い慣れない方法で酷使している目元をほぐしながら夜が呟いた。

「なにかしらって、手紙ってこと?」

「そうね、手紙とか。あとはなんだろう。……伝言?」

「それ、誰から?」

 昼は珍しく苦笑しながら、涼やかな香りの薬草茶を夜の前に置いた。

「ありがとう。ほんと、誰からかしらね」

 ふたりで力の抜けた笑いを浮かべていた時、玄関扉につけた大き目のベルを鳴らす音がした。




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