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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は方向を見つける

「砂漠に行ったことは間違いがないみたい。おじさんは止めてくれたみたいだけど」

「そう、やっぱり」

「あと、先生に聞いた限りでは、砂漠の向うの国で内乱も起きたらしい」

「そう」

「先生も詳しいことはわからないって。学校の出入りの商人から聞いただけで、話を聞いたのも少し前だから、内乱がいつ起こったともわからないらしくて」

「……そう」

 昼は焼きたてのパンと少しだけ冷やしたスープを夜の前に置いてから、溜息と一緒に座った。

 村で落ち合った時は夜は「帰ってからね」と言ったまま、黙って荷車を押して歩いた。昼もさほどの情報は得られなかったので、こうして食事の用意をしながらやっと話をしたのだが、結果としては不安が増えることになってしまった。

 夜が行った村に1軒しか本を扱っていない店でも、本は陳列されている商品の一部でしかない。それもそのはずで、本は個人で買えるほど安くはない。そして置いてある本の8割は貸し出し用である。そして村で本を購入するのは教育者か宗教者がほとんどだ。

 夜はそこで地図を1冊借りた後、近くの学校を訪ねた。そこでかつて教えを受けていた恩師に話を聞いてきたのだ。

「そしたらこの地図ではあまり役に立たないって言われて」

「古いから?」

「そうなの。作られたのもかなり前だから、国が変わっているって」

「国って、変わるの?」

「ねえ」

 夜は苦笑した後、「国が変わるなんて考えもしなかったわよね」と言ってからパンを手に取った。

「あ、これいい匂い」

「そうでしょう。新しいハーブを試してみたんだけど、うまくいったみたい」

「味もいいわね。チーズにも合うし」

 しばらく黙って食事をし、片付けまで済ませてお茶を入れてから、夜は再び話をはじめた。

「それでも地形は変わっていないから、歩いていくとしたらこのぐらい」

 砂漠の書かれた地図の上を動かした指の範囲はそれほど広くない。

「もっとも砂漠は歩いて行くところではないって言われて。ならなにか馬車とからくだとかを利用できたとすれば」

「らくだ?」

「らくだ」

「らくだって見たことないわ」

「そうね、私もないわ」

「らくだって、そんなすぐに見つかるものかしら」

「見つかっていない場合、朝は大変なことになっているだろうって」

 昼は息を呑んで口を閉じた。

「ただ、そういったものを利用すれば砂漠を越えて他の国に行くことは可能だっておっしゃってたわ」

「そう」

 またしばらく黙ってお茶を呑んでから、夜が口を開いた。

「どちらにしても朝がどうしたかはわからないんだけど、先生にひとつ提案をされてね」

「提案?」

「うん。朝がどこに行ったにしろ、それを知るのはすぐには難しいから、内乱とかを含めて、いろいろな国の情報を得る方法を考えてみたらどうかって」

「いろいろな国の」

「そうなの。まずは世界がどうなっているかを知らなければ、動きようがないのではって」

 昼は恩師の温厚な丸顔を思い出しながら「そうね」と頷いた。もう老年に差し掛かっているだろう恩師は、宗教者も兼ねている。両親を亡くしたばかりの三つ子が生活できるようにと役場を回ってくれた人だ。

「先生は自分もなるべく協力するから、まずは落ち着いて世界を知りなさいって」

 昼は頷いてからお茶を飲み干した。

「知ることが大事なのね」

 夜は昼の何かを覚悟した顔に、ほっとしてやっと笑顔を浮かべた。

「うん。頑張ってみようね」

 ふたりの不安だらけの気持ちが、少しだけ進む方向を見つけたようだった。


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