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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は寺院で目を回す

「……大丈夫か」

「大丈夫。……あ、でもちょっと驚いたかも」

 挨拶のために通された礼拝堂の一室で初めての対面を待っていた朝は、高位の僧侶の服がひとりでに歩いてくるのを見て、そして恐らく疲れなどが相まって、「ひょぇっ」と変な声を発してしまった。

 そしてその服は、いや院長は動きが速く、息を整える間も無く目の前まできて朝の顔を見つめて言い放った。

「修行が足りないよ」

 服に埋もれている院長は小柄で肉が薄く早口で、そこから怒涛の質問攻めを始めた。

 それは1日に4回ある祈りの、3回目の鐘が鳴り始めた時まで続き、ほとんど返事はしていないのにも関わらず、院長はうんうんと頷きながらまた、「修行をしなさいよ」と、ずっと黙って後ろに控えていた副院長と共に部屋を出ていった。

 ろくに返事もできなかった朝は茫然としていたから、ハバラの心配も道理で、朝も大丈夫と返したものの、本当に大丈夫かどうかの自信は無かった。

「とりあえず休もうか。ああ、わざわざ申し訳ありません。こちらはもう大丈夫ですので」

 ハバラの言葉の後半は戻ってきた副院長に向けられていた。

「いや、気にしなくてもよい。私も案内や手伝いぐらいはできるからね。この寺院の中だけなら、だけれども」

 副院長は細身だが背は高く、長い手を緩やかに動かす。目も鼻も口元もほっそりとしているが、その目は瞼を開くことが無い。どうやら生まれつきのようだが、自分で言っているように、するすると不自由なくふたりを案内してくれた。時々、緩く動く手が何かを捉え、すっと動かしたり、避けたりするところを見ていると、寺院の中にあるものをすべて覚えているようだ。

 案内された部屋は普段は4、5人で使っているようで、家具もいくつか置いてあったが、今は2人分の寝具だけが用意され、間仕切りもきっちりと作られていた。院長の質問を浴びていた間に整えてくれていたのだろう。安堵した朝は礼儀も何もなく、副院長が出ていった途端、扉に近い方の寝具に座り込んだ。

「違う、お前は奥だ」

 ハバラは容赦なく朝の腕を引くと、すぐさま奥へと追い込む。

「え、どっちでも」

「良くない。お前はいま主なんだから奥だ。危険も少ない」

「危険って」

 とはいえ、奥の寝具はさきほどのより若干柔らかいようで、なるほどこういうところでも身分の差はつけられているものなのだ。

「おい、食事はいいのか。それにホコリぐらい払ってからにしろ」

「……そうね、ホコリぐらい……」

 そう言った朝の目に映ったのは一面薄い青に塗られた天井で、三つ子の家の浴室のタイルを思い出させた。

 そして次に朝が目を開けた時には、新しい日の太陽がすでに上っていて、ハバラの呆れた顔は久しぶりに髭も剃ってすっきりとしていた。



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