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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は港に着く

「……海? ここが海?」

「海を見たことが無いのか」

「あるけど、まだ子供だったし。確かに潮の匂いがするし、水はあるけど。ええっと、広くない」

「広く。ああ、これは港だ。内海の港だから水平線がわかりにくいだけだ。いまは商船も多いから余計見えにくいし、大型船が主だから、船だけ見ていると町のようにも見えるだろう」

 ハバラは苦笑しながら、それでもきちんと教えてくれた。

「港。ここが」

 港に行くと言っただろうといわないだけ、ハバラも譲歩しているのかもしれない。これまでなら第一声はそんな感じだったと思えるが、朝に慣れたというか、朝の反応に慣れたようだ。

 馬車の道のりは存外長いものだったし、小型の馬車での移動は朝には楽なものでもなかった。

 ハバラは御者として馬車を繰っていたので話などできるはずもなく、揺れる馬車の中では本どころか地図を見ることすらできなかった。かろうじて小さな窓から変わる景色を覗くぐらいで、それも途中から気分が悪くなって、ひたすら早く着くことを願っていただけだ。

 だから朝は着いたと言われて、ほっとして、まだ揺れているような感覚のまま馬車を下りて、見えたのは乱立する船のマストと、狭い水面、潮の匂いと、マストと同じように乱立してひしめき合う建物と出入りする多くの人々。

 朝は地元の村ではもちろん、近くの町でも、両親と三つ子と行った海でも、そして砂漠からここまででも、つまり生まれてこの方、こんなにも沢山の人達を見たことが無かったので、腰がひけてしまったのだ。

 そして思わず出てきた言葉だった。

「とりあえず馬車を置いて寺院に向かう。おい、歩けるか?」

 ただでさえ大きな目を見開いたまま港の喧騒に気圧されている朝を、心配そうにハバラが覗き込んだ。

「大丈夫。あの、大丈夫よ。ええっと、ええっと。あ、馬車を置いていくの?」

「これから行く寺院は路地を抜けなければならない。馬車だと遠回りになるし、目立ちすぎる」

 こんなに人が多くては目立つもなにも無い気がするのだが、朝は素直に頷いた。

「大丈夫よ。歩けるわ」

「よし」

 ハバラはそれだけ言うと、朝の額に上げられていた布をそっと垂らした。



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