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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜と昼は聞き込みをする

「お勧めできないって言ったんだがよぉ。俺、言ったよなぁ?」

 交易市場で働く御者の男は、訪ねてきた夜を見て、目を瞬かせながらそう言った。

「砂漠を越えるなら他の手立ても考えるし、村に戻るなら送ってやるって。俺、そう言ったんだよぉ。ああ、お前さんじゃねぇんだよな。そうだよな。悪いけど、俺はあんたたちの区別がつかなくて、誰ってのは」

「いえ、皆さんそうですから、気にしないでください。そうですか、砂漠ですか」

「国境の門まで送っていったよ。もう、どれだけ前だったかなぁ。でもこの間、野菜が採れたって、あれはじゃあ、ええっと。すまねぇけど、誰が誰かはわからんなぁ」

「ええ、大丈夫です」

 つい一昨日、昼が採れたばかり作物を何袋か買い取ってもらったのだ。その時「無事に戻ったのかい」と聞かれて、「ありがとうございます」と答えたことを、昨日、朝の安否を知るためにどうしたらいいかと話している時に、昼が思い出したのだ。

「村の人たちも私たちが出かけていたのを知っていたから、それで聞かれたんだと思ったんだけど、もしかしたら、朝だと思ったのかもしれない。本当に心配したって、何度も言ってたから」

 それで夜が話を聞きに訪ね、朝が門を通って砂漠に向かったことがはっきりとわかったわけだ。

「……砂漠、って探すには広すぎるわね」

 夜は夜でかなり途方にくれてしまったが、他の村の人に話を聞いてくれている昼と合流するまでには落ち着かなければいけない。ふたりでおろおろしたところで何もならない。

「やっぱり必要ね」

 次に夜は、村に1軒しかない本を扱う店にむかった。新しい地図を手に入れるのだ。



「最近、やっと区別がつくようになったのよ」

 日用品店のおばさんは「ふふん」と得意そうに笑ってから、「あんたは昼ちゃんでしょ」と指を振り回しながら言った。

「あたりです。すごいです」

 昼は嘘ではなくそう思った。いままで、3人を見分けられた人は、両親以外は誰もいなかった。

「実はね、最近っていうか、さっきわかったんだけどさ。この間、夜ちゃんが来たじゃない。あ、なんか違うなって思って、改めて聞くのも失礼かとは思ったんだけど、名前を聞いたら夜ですって言われて、一昨日は違う子が来たねって聞いたら、姉の昼がお邪魔しましたって。それでわかったのよ」

 おばさんは嬉しそうに笑う。

「夜ちゃん、きれいねぇ。ああ、あなたもきれいだけど、同じ顔なのに雰囲気が違うっていうか。ねえ、もうひとり、朝ちゃんは? このところ来てないわよね? それともあたし、朝ちゃんは区別がついてないのかしら」

 後半はやや尻すぼみの独り言めいた口調になったが、それで昼は朝はここには寄っていないとわかった。少なくとも、東に行くにはこの店先は通らないだろうし、区別がつかなかったころに通っていたとしてもそれは、朝はあっちへ行ったとかわかる話を聞くことはできないだろう。

「朝は最近来ていません。あの、またそのうちお邪魔すると思います」

 とりあえず昼は必要と思われるより少しだけ余計に買って店を後にした。

――やっぱり、夜はきれいよね。

 そう思ったことは、なんとなく誇らしく嬉しいことで、束の間、昼の不安を和らげてくれた。



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