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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜と昼は息を呑み、朝は驚く

 夜へ届いた手紙の分厚い方は、最初に泊まった宿の受付の娘と女主人からで、砂漠を越えた向こうの国で内乱が起きて大変らしいけれど、そちらには何も変わりはないかという事が少し書かれた後は近況を尋ねつつ自分たちの話をするという、よくあるおしゃべりみたいな内容だった。内乱という物騒な言葉を使っているわりに、夜を含めた自分たちには関係の無いことだと思っている事がよくわかる。

 薄い方は昼が思った通り、アシからで、夜が帰宅を知らせた事に安心した事に続けて近況が少し、それよりも長く他国の内乱について書かれていた。どうやらアシの両親の職場に関する材料がその国を経由していたらしい。珍しいその材料が少なくなったため、休業を余儀なくされてから両親が家に居る事、もっとも別ルートを確保したら再開できるから心配はあまりしていない事に続き、なにかしら夜の村にも影響が出ることがあるかもしれないと、夜の方を心配している。内乱の事情も少し知っているようで、そこはなんとなくアシらしいような気がした。

 昼に届いた封書には、ジャンジャックからの、夜の手紙への礼と共に、あまり手紙を書くものではないと両親に止められたので我慢していたがまた手紙を書いても構わないかという内容の手紙の他に、世話になった診療所の医師からの手紙が入っていた。それには内乱が起こっている国があるからあまり国を出ない方がいいという、昼がまたひとりで旅をしないように釘を刺したものでもあり、昼の国は南北に長く、昼の村は更にその外れにあるから情報も入りにくいだろうという心配もしていた。

「内乱って、起こるのね」

 昼は内乱という言葉の物騒さ加減に気持ちがついていかず、それ以上の考えが浮かばない。

「そうね、ちょっとよく」

 わからないと続けようとした夜は、「あっ」っと小さく叫んで昼を見た。

「朝は? 朝は東に冒険をって、砂漠の方へ行ったってことじゃないの?」

「え。……あ、そう、東には冒険があるって。まさか」

 昼の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。同じように夜も顔色をなくしていった。そしてお互い、どうしたらいいのか、何を考えたらいいのかわからず、もはや言葉も出てこなかった。



「明日、ここを出る」

 戻ってすぐのハバラの第一声がこれだった。

「明日? 明日ってもうすぐの明日?」

 朝の返事が間の抜けたものになったのは、ハバラが戻ったのはあと数時間で1日の始まりの祈りの鐘が鳴る頃だったからだ。

「その明日だ。馬車を用意した。これで港まで向かう。そこからは船だ。悪いが説明はそれからになる。だがいきなりいなくなるのも怪しいから、食事を終えてグラカエスに挨拶をしてからだな。あとこれを荷物に入れておけ」

 それはグラカエスに借りたペンと外には出すなと言われた本で、朝はぎょっとして目を見開いた。

「それは借り物だし、内容も口外するなって」

「俺が持っていくことはわかってこれを出しているんだ。気にしなくていい」

「え? どういうこと?」

「どうもこうも。それも後で話す。あと預けた小袋だが」

「返すわ」

 なくさないようにと小袋を入れたそれも小さな鞄は、起きたらすぐに斜め掛けにして身に着けている。

「いやいい、そのまま持っていてくれ」

「え、でも怖いわ」

「それは何もしない」

「いやいや、ここにいる間だから持っていられたけど、外へ出るとなると持っているだけで緊張しちゃうから」

 戻ってから初めて、ハバラは笑顔を見せた。

「お前はきっと、緊張しているぐらいがちょうどいいと思うぞ」

「どういうこと?}

 その時、誰かが扉を軽く叩いた。



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