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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は本を読む

 ハバラが戻ってきたのは、6日ほど経った日暮れだった。疲れているはずなのに、それを感じさせない今までと同じ無表情な顔で離れに入ってきたが、グラカエスが用意してくれた机に置かれた沢山の書物を見て、最初に出たのは笑い声だった。

「ははっ、すごいな、こんなに読んだのか」

 別に揶揄しているわけではない。純粋に驚いたようで、それは朝にもよくわかったし、なんだか照れてしまった。

「いえ、とても全部は読めないし、理解できない事が多すぎて困っているところなの」

「うん、そうだな」

 ハバラは机上にどんな種類の書物があるかを見てから、いくつかの山により分けた。

「ああ、地図もあるのか。これは」

 朝が書き込んだ青い字を見て一瞬目を見開いた後、「そうか」と呟くと朝の言葉は待たずに続けた。

「読んでいる途中のものもあるだろうが、地理的なものをおおざっぱでも理解したいならこの2冊、政治とも関連して考えるならこの歴史書、この3冊を地図を傍らに置いて参照しながら読むとよりわかりやすくなる」

「全部読んでるの?」

 驚く朝に「ここにあるのは全部入門書のようなものだ」と当たり前のように言うので、朝は「そうなの」としか言えなかった。入門書と言われたこれらのどれも、ここに来るまで朝は見たことも聞いたことも無かったからだ。

 三つ子で1番勉強をしていたのは夜だろう。学校以外でも本を読むのは夜だけだ。昼はなんでも真面目にやり遂げるが、自分からやりたいとは言わない。朝は興味があるもの以外は出された課題を終えるのがせいぜいだった。その自分がこれまでの3人のどの時よりもこの数日で本を読んでいる。頭がぐらぐらしても、いまの状況が朝に知識を欲した。わからないことだらけで、学ばずにはいられないのだ。

「これは」

 ハバラはグラカエスが決して口外するなと言った本を手にすると、最後の方のページを読んでから、「なるほど」と、そのまま朝に手渡した。

「わからなくてもいいから最後まで目を通しておけ」

「絶対外には持ち出すな、口外もするなと言われたの」

 読んでいいか躊躇っていたので、表紙すらめくっていなかった。

「どうするにしても、判断に1番役にたつはずだ」

「……わかったわ。そう、どのくらい」

 読むのにどのくらいかかるかと聞きたかったが、朝が本を読む速度などわかるはずもないと思い止めた。しかしハバラは言葉を他の意味に捉えたようだ。

「また出かけてくるから数日、いや、1週間ほどは時間がある。わからないことはこれまで通りグラカエスに聞いてくれ」

「また出かける?」

「ああ、話をする時間がなくて申し訳ないが思いのほか情報が集まらない。状況の原因をある程度特定しないと危険があっても避けられないからな」

 それから困ったことが無いかと尋ねてから、朝に寺院から預けられた小袋を渡した。

「万が一ここを1人で出なくてはならなくなったら、これを使うといい。海に向かい、青い丸屋根の寺院を探せ。そこで俺の名前を出せばなんとかなるはずだ」

「それって」

 驚いて顔色が変わった朝に、「いや、大丈夫、念のためだ。俺はそれを寺院に返す義務があるし」と苦笑してから口元を引き結んだあと、「お前を無事に安心するところへ連れていくことが最優先だから」と付け加えた。

「……ありがとう。じゃあ、戻るまで預かります」

「ああ、頼んだ」

 ほんの数刻で、ハバラはまたどこかへと出て行ってしまった。



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