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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜と昼は手紙を読み、朝は考える

 夜は水路を見て回った後、新しく試している品種の豆の畑にも手を入れてから家に戻った。そして村から戻ってきた昼に、「上出来じゃないの」と微笑んだ。

「かなりきちんと直してくれたのね。私ではああは直せないわ。……ああ、やっぱりあったのね。本当に毎日これだけの厚みは凄みがあるわ」

 妙な感心の仕方をする夜に、昼は顔を顰めた。

「もういつなんて返事を書いていいかわからないって、わかるでしょう?」

「そうね。さっそく手紙を書いてみるわね。少し落ち着いてくれる方が嬉しいでしょう」

「そう願うわ」

 ほうっとため息をついてから、昼は「それと、これは夜に」と、手紙を差し出した。

「私?」

 差し出された手紙は最初に泊まった町の宿の受付の娘からで、宿の女主人の名前が連名で書かれていた。

「親切だったっていう女の子?」

「そう」

 それからふたりは黙ってそれぞれの手紙を読んだ。読み終えてから昼は溜息をつき、夜は「じゃあ、明日は私が町まで行ってくるわ」と応えた。

「その手紙の返事も出すの?」

「うん、ちょうど良かったわね。買いたい物もあるし。必要な物があったら書いておいて」

「明日には入るって言われたのがあるから、それをお願いしようかな。食事にする?」

「そうね。ああ、午後は斜面の畑を見てくるわ。支えも直したいし」

「お願いします」

 その後、台所では新しい村長の話に終始した。



 食事を運んでくれた尼僧に聞かされるまで、朝はハバラが寺院を出ていたことに気が付かなかった。

「敷地内にとどまるようにと念を押されていましたよ」

 尼僧は頬を染めながらそう言って離れを出ていった。ハバラにはどこででも尼僧の頬を染める作用があるようだ。

「出ませんとも」

 食事を終え、借りた道具で掃除も洗濯も終え、川に面した芝生の傍の木立の影でいただいたお茶を飲み始めてもなお、太陽が天頂に届くにはまだ時間がかかりそうだった。

「出ようっていっても、どこに行ったらいいかわからないし。近くに市場も何もなさそうだし」

 僧侶達は食事などの必要な物を持ってくる以外には近づかないよう言い含められているらしい。グラカエスが日の出の祈りの時間の前に顔を見せに来た時、「だから安心して休んでくれていい。無理しなくてもいいから」と、朝が慌てて被った薄布をそっと直しながら笑って言った。

 いろいろ見透かされていることに、改めて朝も頬を染める結果になったわけだ。

「どこに行ったら」

 風が水面を揺らす。小魚の影がきらりと光ったから、それで揺れたのかもしれない。

「ほんとうに、どこに行ったらいいのかしら」


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