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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は状況を知る

「お前の国の内乱はなかなか準備周到だったようだ。すでに官長殿は国外脱出しているらしい」

「官長が?」

「ああ、俺も俄かには信じがたかったが、国内にいないことは確かなようだし、捕縛されたとの話もない。どうやら地下通路を通って脱出したということなのだが」

「あの国に地下通路が?」

「できないことは、無いんじゃないか」

「あったらもっと楽だ」

「楽。まあ、楽かもしれないが」

 ここで口を挟むべきではないかもしれないとは思ったが、朝は聞かずにはいられなかった。

「地下、無いんですか」

 ハバラとグラカエスは驚いたような顔で朝を見た後、ハバラは「ああ、彼女は砂漠の反対から来たんだ」とグラカエスに言ってから「あの国は地盤が複雑なんだ」と朝に答えた。

「砂漠に近いせいもあるだろうが、地盤がしっかりしているところとしていないところの差が激しい。しっかりしていても、地上に建てられる高さは3階程度がぎりぎりと言われている。通常は2階建てぐらいまでだろう。基礎が持たないからな」

 朝が見た僧院はたいそう立派に見えたが、それでも鐘楼が3階程度の高さだと言われ、朝はどこかで一度、距離や長さの単位を確認した方がいいと感じたが、ここはとりあえず「わかりました」と言うにとどめた。

「わからないことはまた聞いてくれ」

 ハバラはそう言ってからグラカエスに続きを促した。

「とにかく官長はすでにいない。いまあの国は軍閥が握りかけている」

「かけている」

「まだ収まってはいない」

「情報はそこまでということか」

「そうだな」

 グラカエスは束の間躊躇った後、国の中の様子はよくわからないと言った。

「軍閥がかなりの攻勢をかけたらしいが、各地の市や町の細かな様子などはまったくわからない」

「わかった」

 朝が出会ったあの町の人々の様子はわからないということだ。ハバラにしたらいてもたってもいられないだろうが、朝がいることで戻るに戻れない。朝は私は大丈夫だからとは言えない自分が情けなかった。この状況でここからどこへ行くにしてもひとりで大丈夫とは、朝もハバラもとてもとても信じられない。

 朝の心境はわかっているのか、ハバラは朝に向かい、「心配しなくていい。あの町は備えは万全だ。地下が無くても逃げるところはある」と言ってから、「じゃあ、このあたりの動きは」と地図を示し、グラカエスは「こことここは非難的な声明を布告したが静観。難民は受け入れる」と隣国の2国を指で叩いた。

「この3国は静観というより知らん顔だな。情勢を見て決めるという感じだろう。他の諸国には情報がやっと着いたか着かないかというところか」

「思っていたより遅いな」

「内乱を知られたくない国があるということだ。3国の中にひとつ、他にふたつばかりは確認できている」

「武器か」

「ああ」

 ハバラとグラカエスは揃って溜息をついた。

「どちらにしても」

 グラカエスはハバラと朝を見てから微笑んだ。

「ここに来てくれてよかった。しばらく様子を見ながらこの先を考えた方がいい」

「そうだな、そうしよう。助かるよ。ありがとう」

「こちらこそ。お前には世話になったし、これからも世話になる予定だからな」

「人使いが荒いな」

「お互い様だ」

 ふたりの間に少しだけ何かを懐かしむような空気が漂った。だがグラカエスはそれに浸ることなくさっさと腰をあげた。

「今日はゆっくり休むといい。足りないものがあったら言ってくれ。ああ、あなたは」

 グラカエスは出ていく前に朝の顔をまじまじと見つめた後、「目立つから注意した方がいい」と付け加えた。

 閉まったドアからハバラに視線を移し、朝は「目立つのね」と繰り返した。

「何度も言っている」

 ハバラは今更と肩をすくめた。


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