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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝はびっくりする

「こちらのお部屋をどうぞ」

 案内された部屋は、いままでで1番広く、寝台はゆうにふたりは寝られそうな大きさがあったが、さすがにここにふたりで寝るのはどうだろうと朝は顔を顰めた。

 ふたりを連れてきた尼僧はそんな顔に気づきもせず、「ご存じでしょうが」と細かな規則をひと通り説明した後に出て行った。

「心配しなくても俺は他の部屋に入る」

「え、でも」

 実は寺院の部屋で個室というのは珍しいと、朝は今回のこの旅というか冒険と言ったものか、で初めて知った。まだ修行僧の時は大人数の部屋に、階層が上がるにつれ人数が少なくなるものの、個室を与えられるのはかなりの要職になった僧侶のみで、若い僧侶や尼僧に個室を与えられることはほとんど無く、それは他の寺院からきた客の僧侶であっても同じだという。

 最初の寺院はハバラが連れて帰ったということや、恐らく砂漠から来たということもあって個室が用意され、2度目の寺院では男女のふたりが旅のほこりがかなりついた状態で来たため、いろいろな意味で配慮されたらしい。

 今回は尼僧と道案内として仕える牧童である。同じ部屋に通されるだろうなと朝は考えたが、それでも寝台は別に用意されると思っていたので、つい顔に出てしまったのだ。

「普通は予備の寝台が用意されるが、こちらも急に訪ったから難しかったんだろう。せめてもと部屋を広くしてくれたのは、牧童は部屋の隅ででも寝られると考えたんだろうし、そんなものだ。それでもいいのだが、たぶん」

 ハバラが言い終える前に、ノックの音もそこそこに扉が大きく開かれ、その扉が開けられるよりも早く大音声が響いた。

「よう、ずいぶん無沙汰してたなぁ、お前」

 背も横幅もハバラより格段の大きさで、もちろん手も多きく、その手がハバラの肩をバンバン叩き、「よく顔を見せろ」と顔を向けさせ、しみじみ眺めながら、ハバラに何を言う間も与えずに、これまた大粒の涙をぽろぽろと零したので、朝はもうどうしていいかわからずに口を開けて見ているしかなかった。

「……元気そうだな」

 やっと返事をしたハバラの声を聞き、いったん止まりかけた涙が再びあふれ出した僧侶が何かを言うのを、ようようハバラは押しとどめた。

「とりあえず、話をしよう」

 僧侶はうんうんと頷くと、そこで初めて朝に目を止め、その大きな目を見開いた。

「……誰?」

 朝はそれは私も聞きたいと思いながら、微笑んだ。



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