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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は新しい僧衣で

 食事のあと、新しい僧衣に身を包んでから朝は借りていた部屋を見渡し、うん、と頷いた。

「おおよそ、良し」

 三つ子は揃って整理整頓好きではあるが、やはり得手不得手というのはあるもので、どちらかと言うと朝はおおざっぱで、それは本人も自覚している。だからなんでも「おおよそ」できていれば良し、と思うことにしていた。昼や夜のようにを目指していたら、それだけでぐったりしてしまうだろうし、それは朝の性分には合わない。

「ああ、その方が軽そうだな」

 部屋から出れば、すでに男は庭でらくだを連れて待っていた。

「ええ、ずいぶん楽だわ。ありがとう」

「この先は冷える場所は少ないし、汗をかいても洗いやすい方が便利だろう」

「荷物も軽くなったし」

 借りていた厚手の僧衣を、薄い生地で、足首まで短くした僧衣2着と交換するように手配をしてもらったおかげで、歩くにもらくだに乗るにも楽になりそうだ。替えの僧衣に加え、肩掛けを兼ねた頭巾を入れてもこれまでよりはひと回りほど小さくなった荷物を鞄と共に手渡している時、「足りないものはございませんか」と声がかけられた。

 振り向けば、この僧院に着いてからずっと世話をしてくれていた尼僧が微笑んで立っていた。

「いいえ、大丈夫です。お世話になりっぱなしで申し訳ない」

 男が朝には見せたことのない笑顔で応えると、尼僧はぽっと頬を染めた。

――まあ、当たり前か。

 ふふっと零れてしまった声に、男はちらりと朝を見たが、気にせずに続けた。

「ああ、足りないものというか、この先にある僧院への連絡になにかあれば助かるのだが」

「そうでした。院長がこれを」

 尼僧は手にしていた小さな袋を男へ差し出した。袋を開いた男の笑みが大きくなった。

「これはありがたい。恩にきます」

「お役にたてればなによりです」

 尼僧の頬はますます赤くなったが、朝にも礼を尽くすのは忘れなかった。

「その僧衣もお似合いですね。お国の方では違うかもしれませんが、フードはもう少し緩くても大丈夫ですよ」

 言いながらそっと朝の頭巾を整え、また頬を赤くした意味は朝にはよくわからなかったが、朝も笑みを浮かべて礼を言った。

「ありがとうございます。僧衣もたすかりました」

「いいえ、こちらこそありがたいです。冬用の僧衣はこの辺りまではあまり回ってきませんもので」

 朝はこうして僧衣を身に纏うことになるまで、僧衣に夏冬の別があることも知らなかったし、僧衣は、国や宗派で違いがあるにしても、僧院に配られて貸し出されるものであることも知らなかった。個人所有になることはなく、どこの僧院でも借りたり返却したりすることができるという、便利だし、宗教らしいともいえる仕組みだとも言える。

 この仕組みのおかげで尼僧と名乗るだけでこうして服も食事も与えられるという、朝にとっては大変有難い制度である。だが安易に僧を名乗る人たちが出てきて困ったりはしないのだろうか。

――あとで聞いてみよう。

 尼僧に聞くわけにはいかないから、朝は再びお礼を言うにとどめ、尼僧は耳まで赤く染めた。



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