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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は地図を借りる

「ここ」

「そう。ここがこの国」

 男の国の南隣の国の東、低い山並みと森を越えたここ。低くても山脈がある分、周囲の国の影響を受けにくい。西と南に山を、北にはなだらかな平野の先に大河を、東には内海を抱えている。小国というには大きいが、朝達の国よりやや小さい。地形的な要因も大きいだろうが、エネルギー資源もあるので、独立性が高い。平和協定はいくつも結んでいるが、いざとなったら自衛の軍隊も動かせるという。

「なるほど」

 実地で地理や政治の勉強をすることになるとは思わなかったが、興味を持ってみればなかなか面白い。そうなった状況を考えれば、面白いとは言ってもいけないのかもしれないが、考えるには十分すぎるきっかけである。

「この国はまだ紛争に関わることもないだろうが、ここ」

 さっき示した砂漠を領地としている国を示し、「ここが動く時にはこの河を利用することになるだろうから、否応もなしに巻き込まれかねない」と言った後で、「だが国主は砂漠を手放したいと思っているから、動かないかもしれないがな」と皮肉な笑みを浮かべた。

「そうなの? 領地なら減らしたくないものではないの?」

「役に立てばそうだが、いろいろな歴史の上でなぜか手に入れてしまった土地で、資源が無いうえ、水が少なすぎる。利用価値がかなり低い。だからほぼ放ってある状態なわけだ。今更無くしたところで国民の反感が起こるとも思えない。なにしろ国民は誰ひとり住んでいないんだから」

「なるほど」

 うんうんと頷く朝に苦笑を浮かべながら、男は地図の上の指をまた動かす。

「こんな状況だから、砂漠方面に戻ることは考えない方がいい。どこへ出るにしてもこの国の東の海へ向かい、そこから船なり、列車なり、なんらかの移動方法を考えた方がいいだろうな」

「どのくらいかかるかしら」

「国内には乗り合い馬車も多いし、要所では鉄道が敷かれているから、そう日にちはかからないだろう。余裕を持って数日かな」

「数日」

「ああ、何をするにしてもここまでは行ってみよう。その間に」

「どこへ行くか、どうしたいか。考えておきます」

「そうしてくれ」

 そして地図を畳んだ後、思いついた、という顔でそれをそのまま朝へ渡した。

「考えの足しになるかもしれない。しばらく持っていていい」

「ありがとう。助かるわ」

 軽く肩をすくめた後、「ゆっくり休め」と男は部屋を出ていき、朝はようやく貸し出された僧院の1室の小さな寝台の上に、僧服というのはつくづく便利だと改めて実感したが、体をのびのびと横たえることができた。

 宗派はいくつもあるとはいえ、砂漠周囲の国は同じ宗教を信仰している国が多い。おかげで朝は宿代の心配もすることなく、あまつさえたっぷりの食事まで出してもらい、水が豊富なだけあって沐浴もできて、心身ともに落ち着けた。

 あとは朝がこの先をどうしたいかを考えればいいだけなのだが、貸してもらった地図を広げる間もなく、眠りの波に身を委ねる以外の考えは浮かばなかった。




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