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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は地図を見る

「ここが」

「ここ」

 男は左手で絨毯の上を叩いた。そして地図を示している右手の人差し指をぐっと動かす。

「ここが最初に会った砂漠」

「うわぁ」

 地図で見ても果たして砂漠の縁とも言えない場所で、朝は今更ながら己の無謀さに寒気を感じた。

「こうきて、ここが門」

 男の国は朝の国から見ると東南の方角になる。そこまでの砂漠の縁にふたつほど小さな国があるが、どちらへ向かっていたとしても朝はそうそうに干からびていたに違いない。朝が行けると思っていた国は男の国から北へやはりふたつ離れたところにあるが、聞けばオアシスはかなり少なく朝はまた寒気を感じる。

「ここから隣へ」

 ひとつ南の国はやはりあまり大きくはない。砂漠の縁の国々は小さく、きゅうきゅうとひしめきあい、その真ん中に大きな砂漠がある。

「領土として、この砂漠はちょうどこの国の飛び地にあたる」

 男の指は地図の右に寄ったところにある朝の国のおおよそ3分の1くらいの国を、男の国とはほぼ同じくらいの大きさの国を示した。

「へえ、砂漠から離れているのに」

 男の眉がぴくりと上がった。

「あ、いえ、習ってはいるのだけれど、私が持っている地図はこれだけで」

 鞄から出して膝に置いておいた地図帳を広げてみせると、男は珍しそうに手に取った。

「ああ、これは幼年の時に使うものだな。そうか、面白いな、だが」

 ぺらぺらとめくっていた手が止まった。

「なに?」

「ここまでか。これを使って学んでいたのか?」

「ええ、そう。これしか無かったの」

「そうか」

 男は広げていた地図の横に朝の地図帳の、ちょうど見ていた砂漠のページを開いて並べた。

「ほら、縮尺が違うからわかりにくいが、この辺りは表記が違うし、この辺りはいまでは訂正が入っているが、こっちは直っていない。それにこのページはここまでで、こっちのページはここから。上のこの四角いマスにあるようにきちんと隣あって載っていればわかりやすいが、ここからここへ飛んでいる。ああ、いやこのページが無くなっているのか」

 不思議そうに朝を見た男に、朝は首をすくめてみせた。

「たしかにあったはずなんだけど」

 地図帳のはずれてしまったページはおそらく、いつだかの朝か昼か夜が竈の焚き付けに使ってしまったのだろう。台所に置いてある本は時々そんな扱いをされてしまっていた。言い訳をすれば、そんなことをしていたのは、両親が亡くなった後、家を3人で回していくことを日常として慣れるまでの間だけだ。

「まあ、どちらにしても、これを使って砂漠を横断するのは無謀だ」

「そうね」

「使わなくても、ひとりで横断するにはいろいろ足りないがな。主に経験と考えだが」

「もうよくわかったわ」

 今更これ以上朝をせめても仕方がないので、男は話を進めることにして地図帳を返し、床に広げた地図上の国をトンと叩いた。

「いまは、ここ」



 

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