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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は新たな町へ

 野宿にもずいぶん慣れたものだと思っていたが、無事に町に入ることができた時には朝もさすがにほっとした。

「にぎやかなのね」

 尼僧の格好のままだし裾も上げてはいられないけれど、にぎやかではあるが日常のざわめきが朝の心をほっとさせつつ、わくわくもさせる。

「ああ、やはり国境沿いだから人は多い」

 らくだは男の横をぶうぶう呻きながらついていき、朝はその後ろを気持ちだけ俯きながら歩いていく。前の国よりも歩いている人々の服装が彩り豊かだし、顔立ち、肌の色、聞こえてくる言葉も様々で、理解できないものも多い。街路に沿った商店の他に露店も多く、これまた目がくらむほどの品々がある。近隣の国で争いが起こりそうだなんて知らないのか、誰もが笑ったり話をしたり、食べたり買ったり、日常の楽しいひと時を過ごしているように見える。

――私のように、冒険がしたいとか間の抜けたことを考えて国を出てきた人もいるのかしら。

 ここまでくればさすがに自分がいかに無謀で馬鹿げていたかわかるようになったが、あふれるように道を歩いている人たちの中に、自分ほど能天気な人はいないような気がする。

――それなりにいろいろ抱えてはいるんだろうけれど。

 誰にでもあるような悩みから、考えられないような問題まで、抱えるものが無い人はいないかもしれない。

 きょろきょろしている朝を、男は気がついているのかいないのか、咎めることもせずにらくだの前を何かを探すように歩いている。時折「無いな」とか、「あれは、違うか」とか呟いているから、探しているに間違いはないのかもしれない。

 そしてちょっと休みたいかなと朝が思い始めた時、「ああ、あった。あそこだ」と思いのほか大きな声で男は言って、らくだを止め、釣られて朝の足も止まった。

「え?」

「ちょっとその木陰で待っていろ。話を、おい、もう少し顔を隠せ」

 男はやっと気が付いたのか、ほとんど顔を覆っていない朝に眉を顰めたが、それ以上は無いも言わず、朝にらくだの手綱を渡すと瀟洒な外観の建物へと道を渡っていってしまった。

「気をつけて」

 と朝の言葉も聞こえてはいないようだったが、朝もそれは別に期待したわけでもないので、言われたように近くにあった石造りの小さな水場を囲んだ木立へとらくだを連れていった。

 らくだは大人しくついてきたが、水場へ顔を突っ込もうとしたので、朝は近くにいた人にらくだが飲んでいいものか確かめなければならず、朝が使っている共通語がほぼ通じないことがわかり慌てたが、その人は親切にも家畜を繋ぐ場所と水飲み場を教えてくれただけに終わらず、朝にも清涼な香りのする飲み物を屋台からわざわざ買ってきてくれもした。

「お金を持っていないの。どうしよう、少し待っていていただければ連れが戻ると思うのですが」

 もちろん言葉は通じない。僧服の下に貴重品を入れた小袋を持ってはいるのだが、まさか捲りあげるわけにもいかない。

 だが親切なその人は、朝にはどうにも性別も年齢も判断がつかなかったが、晴れやかな笑顔で手を祈りの形にして首を振った。どうやら尼僧に施しをするのは功徳につながる、そういうようなことではないかと推測された。

 僧服はたいへん便利なものだと実感しながら、朝はありがたく飲み物をいただき、渇きを癒した。



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