夜は町を、昼は畑を見て回る
それほど長く離れていたわけでなかったのに、夜は乗り換えの駅舎を出た時に懐かしさを感じた。
国に帰るとはこういうことなのかと、思いもかけない懐かしさに目眩すら覚えた。
なんなく通じる言葉。それでも村とは違い、誰も三つ子のことを知らないという気軽さ。
夜は町の中ほどにある宿に部屋を頼むと、荷物を置いて暮れてきた町を歩いた。歩いてみると、知らない場所の方が多いことに驚いた。村の先の町から列車で数時間。少し遠いが、実は来たこともある。数えるほどしかないが、来る時は似たような用事で出てくるので、用事を済ませる界隈しか知らないのだ。店先に置いてある品物を見て回るだけでも、珍しいものが多くてそれでやっぱり目眩がする。
泊まることにした宿も、その前を通ったことすら無かった。宿の回りを歩くだけでも面白い。
――そういえば。
お土産という言葉が頭に浮かんだ。最初に訪れた町で出会った娘に、お土産はもう買ったかと聞かれた。
――お土産かあ。
お土産なんて買ったことが無い。聞かれるまで、自分が使う言葉だと思ったことも無い。
――たまにはいいかも。
そう考えれば、店を見て歩くにも気合が入る。昼はきっと帰っているだろうから、日持ちする物でなくても大丈夫だと考えた。
――別に食べ物じゃなくてもいいのよね。
ひとりで笑いながら、夜は目に入った店に足を踏み入れた。
「こんにちは。あの、姉へのお土産にはどんなものがいいかしら」
日が暮れきっても、じんわりとした暑さが残るようになってきている。畑の水の量を多めにした方がいいかもしれない。ジャンジャックが直してくれた水路は迂回路まで上手く作られていて、見回ったどの畑も作物はしっかりと水を吸い上げわさわさと元気に風に踊っていた。
昼は水路のことは夜が得意なんだけれどと思ったが、このぐらいの季節はそこまで水の心配をしなくてもいいかと、もう数日様子を見ることにした。
家の中の掃除はすっかり終え、朝と夜がいつ帰っても大丈夫なように整えてある。
だが、と昼は考える。
――夜はともかく、朝はまだ帰ってこないわね。
夜でなくとも、それぐらいの予測なら、昼でも正しくできる。