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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜はまだ列車で、朝は森で

 まっすぐ家に戻ろうと思っていたのだが、乗った列車は途中の駅までしか行かなかった。村に一番近い町の駅に行くには3度乗り換えなくてはならず、その上、はじめの乗り換え駅では、次の列車まではかなり時間があいていた。

 最初の列車に乗り込んだ時の親切な駅員は、「乗り換えの時刻が悪くてすみません」と、まるで自分が時刻を調整しているかのように謝ってくれた。

 けれどそのお陰で夜は静かで感じのいい乗り継ぎの町を、ゆっくり歩いて堪能することができた。

 それに乗り換えの列車の切符を持っていれば駅舎への出入りが自由だということも初めて知った。

 家に帰ると決めたからだろうか。夜は村を出た後よりも、ずっと旅を楽しんでいる。こんな風に楽しめるなら、もっと時間をかけて家へ帰ってもいいかもしれない。

「いい天気だね」

 すれ違った人に声をかけられ、「ほんとうに」と笑って返す。この町は誰もがそんな風で、観光客でも気分よく歩くことができる。

 それでも夜は乗り換え列車の発車時刻が近づくと、そそくさと駅舎へ向かった。ここからの方がここまでよりも少し長い。そこで次の乗り換えの時は、1度駅舎を出て近くの宿に泊まることにしている。そんな方法まで教えてくれたあの駅員は、本当に親切な人であった。

 村に近くに宿をとるなんて、これまで考えたことも無かった。それこそ贅沢な冒険のようだ。無理をすれば村まで戻り、かなり遅い時間になることを厭わなければ家に帰れるというのに、悠々と時を過ごして町に泊まるなんて。

 まだ旅は続いているのだ。

 なんならもう少し、寄り道をしてもいいかもしれない。

 列車の個室に座りながら、ずいぶんと心持ちがゆったりしてきたことを感じていた。





「とりあえず、安心して眠りたいわ」

 朝の本音に、男は声をあげて笑った。

「確かに僧院以来、寝台には寝ていないな」

 見上げれば、山の端に日が沈むところだ。森の入り口が近いから外への見晴らしはいいが、下草が多いのでこちら側は陰って見えにくい。火を焚いても大丈夫なように小さな空き地を作ったが、それでも向こうからは見えないはずだと男は朝を安心させた。

「見つかっても修行中だと言えば、とりたてて何も起こりはしないが」

 尼僧とふたりの修行ではなかなか信用はされにくい。朝にもそれは理解できた。ひっそりと目的地へ向かえればそれに越したことはないということだ。

 そこで目的地を再び聞かれた朝の答えだった。

「わかった。まずは尼僧の格好をしなくても済む国へ向かおう」

「ありがとう」

 朝は男からまだ柔らかさのあるパンを受け取りながら、ほっとして笑った。







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