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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は再び列車に

――アシが「またね」なんて言うから。

 夜は列車に乗り込みながら、アシのせいにした。

 駅の中は町のどこにいたのかと思うほどの人々が行きかっていたけれど、実に親切な駅員が荷物を持ってくれ、6人掛けの個室に案内してくれ、「もう御用はありませんか」と丁寧に聞いてくれた。

 この駅員は夜が切符を買い換えたいと言った時、そしてその後でホームがわからないと言った時も、飛ぶように動いては夜を正しい方向へ導いてくれた。

「それではこれで」

 それだけよくしてくれたにも関わらず、そう言って駅員が名残惜しそうに列車を降りていくのを、夜はほっとして見送った。こんなに親切にしてもらっておいて失礼だとは思ったのだが、なんだか常に何かしてもらわないといけないような気がし始めていたのだ。

 個室は他に誰もいなかったので、夜は存分に自分の思いに耽ることができた。

 アシと別れた時、首都に行く列車は発車時刻が迫っていた。夜は急いでホームに向かった。ホームはなんなく見つけることができたし、無事に乗り込むこともできたのに、列車が出た時、夜はホームに戻っていた。

 アシはもう家に戻っただろうと考えた。モン老人と一緒に、意外な早足で。そして裏庭の椅子に座りあの山脈を見つめるのだ。

 そしてきっと、夜のことを考えている。

 いつまでかはわからないけれど、しばらくアシは夜のことしか考えない。夜は朝と昼の考えていることがわかるように、アシのことがわかった。そしてそれを不思議なことだとは思わなかった。そういうものなのだと、わかっていた。

――だから。

 アシの別れ際の言葉が、夜をホームに戻らせ、駅員に切符を買い換えたいと尋ねさせた。もう出てしまった列車の切符だからほんとうはいけないことなのだが、駅員は躊躇せずにやってくれた。

「なに、よくあるんですよ。大丈夫」

 そのお陰で夜はこうして自分の国へ帰る列車に乗っているのだ。

――朝はともかく、昼はいるわね。

 夜の確信は大概正しい。



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