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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼は買い物をする

 村へ買出しに行くのはほとんどの場合、朝か夜だ。どちらかがとっとと出かけていく。昼はひとりでは滅多に出かけない。どの組み合わせでも、ふたりで出かけるということはある。重い物を買う時は荷車も必要だし、ふたりで手分けすれば早く済む。3人揃ってということはほとんど無い。

 ただ1年の最後の日だけは3人揃って村まで出かける。三つ子の誕生日でもある新年の最初の1日に、ささやかながら祝いをするので、準備の品物を買いに出かけるのだ。3人揃って歩いていると、村の人々の間ではちょっとした騒ぎになるのだが、そんなことも三つ子は知らない。

「どこかへ行っていたんじゃなかったの? 珍しいこともあるって言ってたのよ」

 日用品を扱っているお店のおばさんは、昼の探している品物をひとつずつ台の上に並べながら、興味津々といった顔で尋ねてきた。昼は、「ちょっとだけ」と言いながら財布を取り出した。

「3人揃って家を空けてたんだって? なにかお墓参りとかそんなことなの? 故郷は遠くなんだったけね」

 両親の墓は村の共同墓地にある。それを知らないわけではないのだろうが、他に3人が家を空ける理由も思いつかないのだろう。

「ええ、まあ、そんなようなものです」

 昼は適当な相槌を打ちながら小銭を差し出した。おばさんは差し出された小銭を受け取ると、斜めから透かし見るように昼を見ながら言った。

「そんなことだと思ったよ。それでね、なんだかでかい男の人と歩いているところを見たって言う人がいるんだけど。ああ、でもあんたたちの誰かはわからないんだけどね」

 おばさんは3人とも帰っていると思っているらしい。

 昼は「あ」と口を開けた。そのでかい男の人とはジャンジャックのことだろう。勿論、その時ジャンジャックの前を、走るのと大差ない早足で歩いていたのが昼だとは知らないのだろう。おばさんは、目の前で話をしているのが昼だとも気がついていない。

 昼は開けた口を閉じると、ちょっと困ったように顔を顰めた。するとおばさんはそれが答えだと解釈したようだ。「ああ、やっぱりねえ」と大きく手を横に振った。

「ただの噂だったんだねえ。あんたたちが無用心に男を家に入れるわけないものねえ」

 そうひとり勝手に頷くと、ほっと安心したような笑みを浮かべた。

 昼はそういうことにしておいて店を出た。実に無用心なことをしたのかもしれないと少し思ってひやりとしたが、今更どうしようもない。おばさんは三つ子の貞操観念を固く信じて疑ってもいないようだし、昼はその信頼を裏切ることにならなくて良かったと、そっと胸を撫で下ろした。

 もっとも裏切っていたとしても、口にするつもりはさらさらなかったし、いつかそんな日が来るかもしれないと考えるとちょっと眩暈がするようでドキドキするということも口にはしないだろう。

 最後に牧場で乳製品も仕入れると、ひとりでは多めの荷物を載せた小さな荷車を押しながら家に戻った。洗濯物はぱりっと乾いていた。


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