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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は再び砂漠を行く

 男は日が暮れ、星が瞬き始めてから戻ってきた。

 朝はらくだの背に体を預けながら、ただ待っているのではなく、ひとりでこの砂漠を横断するべきか、何かに巻き込まれていて帰れないのかもしれない男を捜しに行くべきか、戻ってこない長い間悩み、朝を最後まで助けると言っていた男を信用することにしたところだった。

 つまり、探しに行こうとして荷物を纏め、なんとからくだに括りつけ、これはここに再び戻ってこられるということに自信が無かったからだが、よじのぼろうとして、案外らくだというのは大きい上にのぼりにくいものだと思っている時だ。らくだが協力的でないものだから尚更だ。

「何をしているんだ」

 試行錯誤をしている朝を見て、男は呆れた声を出した。

「何って。あなたを探しに行こうと思って」

「……ああ、そうか」

 そう言った後、男はげらげらと笑いだした。町を出てからよく笑う気がする。緊張が多少なりと薄れたからだろうか。

「お、おかしいかしら」

 朝はらくだに乗ろうと必死に上げていた脚を下ろした。体を覆っている尼僧の服は重いが、身頃はたっぷり取ってあるので、脚を上げたぐらいで捲れ上がったりはしない。それでも重いから動かすのには不自由するので、余計にのぼりにくかったのだ。

「いや、ああ、悪い。悪かった」

 男はなんとかそれだけ言うと、ぜいぜいと咳き込みながら腰をおとした。

「……すまなかった。状況を確かめてきたんだ。ついでに食料も調達していたら、予想外に手間取ってしまった」

「らくだで行けばよかったのに」

「らくだは目立つ」

 そう言われれば、朝は町でらくだの姿を見かけなかった。その代りに多かったのがろばだ。ろばの方が小さいし、使いやすい性質なのだろう。

「町まで戻ったっていうこと? けっこう遠いでしょう」

「ここは死角になっているし、それほど遠くまで来たわけじゃないと言っただろう。それに僧院まで戻ったわけじゃない。ああ、水も汲んでくれたのか」

「なんとか」

 男はらくだに乗せた荷物を括りなおし、水袋を確かめると、「ありがとう」と言った。それは朝が今まで聞いた中では1番率直な言い方だった。

「どちらにしても、そろそろ出た方がいいな。とりあえず南に向かう。南のオアシスまでは少し遠いが安全だ。日が暮れれば道もはかどる」

 男は朝をらくだに乗せてくれた。手を借りれば易々とのぼれる。

「前もそうだったわね」

「ああ。日が沈めば気温が下がるから歩きやすい。疲れ方も違う。それにかえって道を間違えない。星が見えるほうが砂漠を歩くには安全だ」

 そういうわけだったのかと納得しながら、朝は砂漠を眺めた。

 これまで朝は砂漠に関することなど何も知らなかったし、知る必要も無かった。砂漠の事にこんなに詳しい人がいるとは思わなかったし、砂漠を越えたところの国で内乱が起きそうになっていることなど、想像だにしなかった。

「しっかり掴まっていろ。ああ、顔はらくだに押しつけなくていいんだぞ」

「わかってるわ」

 朝の返事に、男はまた声をたてて笑った。


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