昼は家で
早くに目が覚めた。まだ太陽は戻っていなかった。
昼はわくわくして寝ていられなかったから、箒をかけた家じゅうを拭き掃除してから食事を作り始めたのだが、それでもまだ薄明るくなり始めた頃であった。
「美味しそうな匂いだ」
鍋をかき回していた時、声をかけられて振り向いた昼の満面の笑顔に、ジャンジャックは少しうっとりとしてしまった。
「おはよう。どうぞ召し上がれ」
昼の煮込み料理はよほど美味かったとみえ、ジャンジャックは残さず平らげて昼を驚かせた。鍋いっ杯の料理が1度に無くなったところなど見たことがなかった。
「あの、足りなかったかしら」
もしかしたらと思った言葉に対する返事に、昼はまた驚かされた。
「いや、腹八分目って言うし、充分だよ。起きたばかりで体も動かしてないしね」
――足りなかったんだ。
女3人の生活では、これほどの料理を作ることも滅多に無い。それなのに、残らないうえに足りないことがあるとは。男の人は食べる量が違うのだと、まざまざと思い知らされた。
「とってもおいしかった。ごちそうさんでした」
「いえ、お口にあって良かったです」
ジャンジャックはにっこりと、そして照れたように笑った。
「なんだか、新婚夫婦みたいだなあ」
昼のぽかんとした顔を見て、ジャンジャックは慌てて両手をぶんぶんと振った。
「いやあ、冗談だよ、冗談。こんなのいいなあと思ったんだけど。あの、いや、あの。あ、そうだ。何か手伝うことないかな。男手が必要なことがあったら、俺、帰る前にやっておくよ」
「はあ」
昼は目をぱちくりと、文字通り、鳥の目のように見開いてぱちくりと瞬いてから、夜に直してもらう筈だった水路のことを思い出した。
「水路が壊れているんだけれど」
「よっし。どこだ?」
ジャンジャックの嬉々とした表情を見て、昼も再び笑顔を浮かべた。