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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は手伝う

 夜はアシと一緒にモン老人の世話をした。外へ行きたがるのを幾度となく止め、体を拭くのを手伝って着替えをさせる。夜にはわからない言葉でする話に、わかったように頷きさえした。

 モン老人は疲れるまで話をしては息をついて休み、いきなり立ち上がって外へ出て行こうとする。引き止めると夜ともアシとも関係なく話を始める。

 だがアシが食事の支度を始めると様子が変わった。台所の椅子に座り込み、アシの様子をじっと見つめている。そしてぶつぶつぶつぶつ呟いては、アシが調味料を入れようとする時に、はっとするような短い言葉を叫ぶ。夜はその度にびっくりして体が震えた。

「ごめん。じいちゃん、料理にはちょっとうるさいんだ」

 アシはモン老人が言葉を叫ぶと、同じ言葉を繰り返した。「ハッ」と言えば「ハッ」と返すという具合に。モン老人はアシの返事に満足そうに小刻みに頷く。

 そうやってできた食事はとてもおいしかった。モン老人は食事は黙ってゆっくり取るので、その間にアシから色々な話を聞くこともできた。遠くで働いている両親のことや、去年まで行っていた学校のこと、この国は首都だけが観光地として栄えていて、他には何の見所も無いということ。

 それでは後でどこへ連れて行ってくれるというのだろうと不思議に思ったが、夜はただ頷くにとどめた。

 身の危険を感じるべきだろうかとは考えた。頼れる人のいない国の、見知らぬ人の男所帯に泊めてもらうべきでもないのではないか。

 だがよく考えても身の危険を感じなかった。そしてそんなところはやはり、三つ子は同じ環境で育った、よく似た姉妹だということだ。少し鈍いのかもしれない。

 食事の後、アシはモン老人をベッドに連れて行くと、毎日飲むというお茶を飲ませた。

「毎日飲むの?」

「うん」

 これはさっきまでの食事と違って、お世辞にもおいしそうとは言えない色と匂いをしていた。モン老人も飲み辛いのか嫌いなのか、口元まで持っていくアシの手を何度も払う。アシはこぼさないように、案外勢いの強いモン老人の手を器用に避けては、何度でも口元まで持っていく。

「飲まないといけないの?」

 何か気の毒なようで言ったのだが、アシは表情を変えずに、「これを飲まないと駄目なんだよ」と言った。

「飲めば泣かないで眠れるんだ」

 これにはどう応えていいのかわからず、夜は黙った。アシは根気強くお茶を飲ませ続け、モン老人は終いにはきれいに飲み干し、顎を拭ってもらってから自分から体を横たえた。

 そして泣かずにすうっと眠りに落ちていった。


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