朝は両替屋で・3
「ええ、お考えのとおり、私は東の国の生まれです」
ヒナダの声が少し低くなった。常の声に戻ったというわけだ。
「そうでしょうね。特徴がありますもの」
「暮らしているところではあまり気づかれないもので、うかつにしておりました」
「気がつくのも私が、ええ、先にも言いましたけれど、私はこの仕事が長いものですから。おそらく想像されているよりも、そうですね、二十年は長いですよ」
「いや、それは」
言い淀んだヒナダに、大女将は「あまり世辞は得意ではないようですね。その方が信頼もできるというものですから、悪いことではありません」と微笑んだ。
「いやぁ、かないませんね。……じゃあ、私よりは」
「私から話しましょう」
ハバラがヒナダの言葉を引き取った。
朝はただ大人しく2杯目のお茶を飲み干した。
「なんだかややこしいことになってらっしゃって」
大女将の手元の茶碗には冷めた茶が残っている。少し重い吐息がその水面を揺らした。
「内乱がなければそう面倒なこともなかったはず」
ハバラはちらっと朝を見て、「まぁ、おそらく、ですが」と付け加えたので、朝は少しばかり憮然とした気持ちになった。
「そうですねぇ、ねぇ、あなた」
苦笑した大女将が朝に向かって問いかけた。
「ここまで来たのだから、先に進みたい気持ちはわかりますけれど、無茶をしたいわけではないんでしょう?」
「はい。もちろんです」
朝自身は無茶をしているつもりはあまりないのだが、ハバラとヒナダに無理をさせている気はしている。ひとりで行けるならその方がいいかもしれないが、それはかなり難しいことはわかっているから、申し訳ないとも思っている。
「なら、私からいくつか提案をさせて貰ってもいいかしら」
朝は頷いた。
「はい。ぜひ」