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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は見上げる

 天井高くにいくつもの窓があり、燦燦と光が降り注いでいる。嵌め殺しの窓のようだが、高い場所にあるわりには透明度が高い。遠くにあるからかもしれないが、汚れが目立つようでもない。

 両開きの扉は建物の大きさに反してそれほどの高さもなく、幅も狭い。大人ふたりがすれ違う程度の幅で、ハバラより頭ひとつ分ぐらいの高さしかない。ハバラは背が高いが、それでももっと高い人はいくらでもいる。きっと頭をかがめて入るしかない。

 外観は木造で周囲の建物のような明るさがないが、重さを感じる濃い茶色の扉は音もなく開くから、よく手入れがされているのだろう。

「……まあ」

 朝は入ってすぐに言葉を無くした。入ってすぐは木造りのまま、待合のような狭さだが、抜けてすぐに丸天井の広間に出る。

 壁はすべてタイル張り、それも青と白の2色しか使われていない。たったふたつの色だけで、草木模様を描いてあり、不思議な草原に来たような、夢の花園に来たような気持ちにさせられる。

「……ここが」

 両親の生まれ育った国だと、朝は強く実感した。

 笑っていたふたりの顔、昼の顔、夜の顔、小さな家と畑と聳える山と川の音。

 まったく違う環境に身を置き、再び帰ることはない祖国の色を灯した浴室。

 家に帰りたい気持ちが胸を占めたが、それでも朝はゆっくり首を振りながら視線を下ろした。

 そのままよくよく見てみると、広間に祭壇らしきものはなく、隅に小さな説教台があり、横にずらりと丸い椅子が並んでいる。説教をする時に聞きやすいように並べるのだという。それぞれに丸めた敷物も重ねてある。お祈り用だろう。

 三つ子の家に、お祈り用の敷物は無かった。朝はこうしてハバラと出会って旅を始めるなかで初めて、宗教や信仰に触れるようになったけれど、それまでは冠婚葬祭でしか関わることなどなかったし、それほど多くもなければ両親は特に積極的でもなかった。

「……懐かしい」

 でもその丸い小さな椅子は家にある。三つ子にひとつづつ、裏に名前を彫った椅子。

 つい近づいて触ってみようとした朝を、ハバラがぐっと引き留めた。

「うろつくな」

 朝は首をすくめて小さく頷いた。




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