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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
233/247

朝は目を丸くする

 朝がこの寺院に来たのは、国境を越える際にハバラが聞いてきた噂話のせいだった。


「どうやら軍が派遣されるらしい」

 国境を越えてすぐの宿は木造5階建てというこれまで見たことのない建築物で、朝はハバラの言葉よりもそんな宿が何軒も建ち並ぶ景色に見惚れていた。

「おい、きょろきょろするな」

「だって」

 これまでの石造ならともかく、木造だとせいぜい3階どまりの建物が多かった景色が、たったひとつの国境を越えただけでがらりとその様相を変えたのだ。朝は木目を生かし彫りものがふんだんに施された壁板が隣の建物と柄を揃えて並び、一連の模様として道なりに続いているのに目も口も丸くしている。

「……仕方ない。こうなったら鍵を使うか」

「なんだ、持たせているのか」

 ヒナダの方はぎょっとして目を剥いた。

「ああ、俺がいなくても大丈夫なように。もっとも使う機会があるとは思っていなかったんだが」

「あまり使いたいものでもないしな」

 ふたりの会話が耳に戻った朝が、「使いたくないものなの?」と口を挟んだ。

「力を与えられたものというのは、危険なものだ。使わなくて済むならそれが一番だ」

「俺なら持ってたくもないな。なにかあることを前提にしていると、なにかを呼ぶもんだしな」

 ハバラが溜息と一緒に頷いた。

「無くて済むのが一番なのは確かだ」

「それでも持っていた方が私には安全なのね。出しましょうか?」

 ハバラとヒナダが揃って手を上げて朝を止めた。

「まだいい」

 ハバラが先を続ける。

「この先に寺院がある。そこで宿を頼む。出すのはそこの院長と話してからだ」

「なら修道女の方がいいのかしら」

「それも後で考える。ヒナダ、まだあの薬は残っていたな」

「ああ、あまり売らずにおいたから十分だ」


 そしてこの美しい寺院の門を潜って、朝はますます目を丸くした。


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