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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
229/247

朝は微笑んでみせる

「ありがとう」

「どういたしましてぇ。なんでも言ってちょうだい」

 ハバラが笑顔を向けるだけで手に入るものが増えるのは、どの国でも町でも同じだということは短くもない期間を一緒に過ごしてきたから朝もよくわかっているつもりだ。

「……多すぎるのではないかしら」

 それでも老若男女問わずに効き目をもたらすその笑顔は、もはや兵器ではないかとすら思われて、小さな身震いがでた。内乱の中枢に関わっていなくて幸いだったのではないだろうか。

「慣れろ慣れろ」

 朝の顔色に気がついたヒナダは苦笑しながら、取引きを済ませて道を戻ってくるハバラに手を上げた。

「こっちだ」

 待っていると言っていた路地から離れていたふたりに近寄ってきたハバラはすでにいつもの渋面である。

「どうした」

 ヒナダはらばの背を軽く叩いた。

「路地裏から出てきた猫に喧嘩を売られてな」

 らばは大人しいから他の動物と揉め事を起こすことはあまり無いが、猫は個性の差が大きい。その尾が切れた猫はおそらく普段から喧嘩っぱやいのだろう。その上かなり機嫌が悪かったらしく、屋根の上からいきなりらばの荷の上に飛び降りてきて、らばと朝を驚かせた。

 猫の怒りを鎮めるよりもらばと共に立ち去った方が安全だったし、注目を浴びるのも避けられてよかったのだ。

「……そうか」

 ハバラは納得がいったともいかないとも顔つきのまま、手にした袋をヒナダへ差し出した。

「焼きたてだそうだ」

「ありがたい」

 袋はそれなりに重く、朝が乗っても文句を言わないらばがぶふうと首を振った。猫の攻撃をまだ気にしているのかもしれない。

「悪いな」

 ハバラが撫でると、仕方がないというようにらばはぶふうと鼻面を擦りつける。別れたらくだを思い出して、さすがだとしか言いようがないと、朝は納得するしかなかった。

「それで」

「1週間ほど足止めされそうだ」

「長いな」

「だがちょうど番兵の交代時期だそうだから仕方がないだろう。それにその方が出やすい」

「……そうか、そうだな。宿はどうする」

「馬屋があるところを教えてもらった」

「お嬢様でいくか」

「それがいいだろう。尼僧ではかえって都合が悪そうだ」

 揃って振り向いたハバラとヒナダに、朝は精一杯お嬢様に見えるようにと微笑みを浮かべてみせた。

 


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