夜の覚書・2
あの時は恋をしているのだと思っていた感情が、夜はすでに思い出せない。そしてアシに対して持っているこの不思議な感覚はこれまで知らなかった。
夜はちょっと笑った後、もう1杯コーヒーを入れて、座り直すと書きかけの紙に向き直った。
「私が会った人。そして昼が会った人」
ジャンジャック以外にも、昼を助けてくれた人たちにはお礼の手紙を夜からも書いている。その後もいろいろとお世話になっているから、また手紙を書いた方がいいかもしれない。
「お医者さん、看護師さん、サマンサ・フロイラ夫人、ソー事務所長」
たくさんの人から親切と心配を受けている。ふふふと笑いながら、夜は学園都市で出会った人々も付け加える。
「ユウノ・エンゲさん、リ・シャンイー教授、ワンソウ夫人、カナイ・エンイ博士」
知り合ってからそれほど経っていないのに、すでに家族のように親しくなっているが。
「そうだわ、みんなもともとはこの国の人でなかったのよね」
カナイ・エンイ博士の話が教えてくれたことを思い出す。その時、この国は余所からきて落ち着くにはちょうどいいのかもしれないと、昼と話したものだ。
「ワンソウ夫人は教授の奥様と同郷ということは、隣の国の人なのね」
教授と亡くなった教授の夫人は学生時代に知り合ったと、ワンソウ夫人が遠い目をして話してくれた。ワンソウ夫人は国を出るのを躊躇っていたらしいが、教授の妻となる女性をひとりにするには忍びなかったと言っていた。ワンソウ夫人と結婚した男性は夫人を追いかけてきたらしい。夫の話をする時、ワンソウ夫人の頬が染まるのがかわいらしい。
「そう言えば、亡命したと言っていたけれど」
ユアン・ラングラーはジャンジャックと同じ国の人のはずだと、ようよう夜は思い出した。
「この国からじゃないのね、でも」
ジャンジャックが言うには、ジャンジャックの国だって取り立てて変わりはないということだった。ならなぜ。
「亡命する必要があったのかしら」
夜はまたひとつの疑問を紙に書いた。




