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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は出発する

 昼と夜が手紙を読んでいたころ、朝はようよう城塞都市を出立していた。

 おおよそ1ヶ月と少しほどいたことになる。ハバラとヒナダは「お嬢様のお礼の気持ちなので」とよくわからない理由をつけて、宿の手伝いまでしていた。それも「情報が入りやすいから」と、どちらかと楽し気で、ほとんど外に出られない朝には癪に障るほどだった。

 ずっと部屋から出られない朝を気遣って、半月を過ぎた頃には宿の庭に、それから少ししてから宿の近くをハバラかヒナダと一緒に出歩いてくれるようになったのだが。

「どうせなら、南側の街道から行くか。儲けがでる」

 ヒナダがラバの手綱を軽く揺すってラバの機嫌をとりながら言うと、ハバラはしばらく考えてから頷いた。

「ああ、中央街道の方が安定していていいかと思っていたが、出てみるとそうでもないな」

 内乱の波はまだまだ大きいが、騒動の中心から離れれば離れるほど影響は薄くなる。日にちがたってくれば、波及の輪は狭まって戻っていく感じがしていた。なので一番往来の多い街道を行けば安全だろうと出発を決めたのだが、思いのほか人々の騒めきが収まっていない。それならいっそ、賑やかな商隊が多い南よりの街道の方がさまざまな国の人間が多く、朝の顔が目立たない。

 ヒナダも中央街道の安全性を考えて、南側は考えから外していたが、安全性が変わらないなら海に近い方がいい。南側の街道は海が近く港町が多い。ヒナダは海の方が慣れている。それにこのふたりはどこにいたって目立つ。目立つのが変わらないなら慣れている方がより安全だ。

「よし、次の交差で南に向かおう」

「了解」

 朝は南と聞いて、ハバラに「暑くなるのかしら」と尋ねた。

「そうだな、しばらく行くと気温も上がってくるかもしれない。冬でも上着がいらないぐらいだからな」

「ならこの布は外していいかしら」

 朝はちゃんと特徴のある織の布を顔が見えないように巻いているが、すでに少々暑い。

 ハバラとヒナダは顔を見合わせたまま、しばらく黙っていた。会話も無いのにふたりがどうしようかと決めかねているのがわかる。朝はおとなしくふたりの結論を待った。

「わかった。次の宿で様子を見て、大丈夫なようなら布は取っていい。その代わりに日射しが強くなるから、かならず傘をさしていろ」

「雨の時ではなくて?」

「傘は日射しをよけるにはいいものだ」

「なるほど」

 朝はらばの背に横向きに乗せている傘をぽんぽんと叩いた。

「砂漠でも使えそうね」

 ハバラは目を瞬いてから「そうだな。それは考えたことはなかった」と呟いた。もともと傘は高級品であるし、生まれた国は雨が多くない。砂漠に出れば雨季でも雨が降らない時間が長い。

「砂漠で傘を売れるかね」

 ヒナダの揶揄い半分の言葉に、ハバラは「もっと軽く、らくだの負担にならなければ売れなくもないかもしれない」と真面目に答えたので、そこからしばらく、3人は傘の構造と販売について話ながら道を進んでいった。


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